ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

湊かなえ「人間標本」(角川書店)

湊さん最新作・・・の筈だけど、予約多すぎて回って来るのに一体何ヶ月かかった

んだ?^^;もう新作とは言えないかもですが。

いやー、最初に出て来る作中作、榊司朗の『人間標本』の部分を読むのは、正直

キツかったです。榊の蝶に対する執着、それを美しい人間の少年たちに反映させて、

人間標本を作って行くくだり、どれを取っても戦慄すべき描写ばかり。あまりの

サイコパスっぷりにぞわぞわしっぱなしでした。榊が作った人間標本をイメージした

イラストが冒頭に収録されているので、一人づつイラストと照らし合わせながら

読むと更に怖気が・・・。作中作を意識してだと思いますが、普段の湊さんの文章

とは違って、耽美で退廃的な描写に寄っているので、文章自体も読みにくさがあり、

グロさとサイコパスな心理描写も相まって、ほんと、キツかった。本人は人間を

美しい蝶に昇華させて芸術作品を作っているつもりでしょうが、やっていることは

単なる猟奇殺人なので、芸術だとは1ミリも思えなかった。ただただ、気持ち悪くて

悍ましかった。

 

 

※以下、ネタバレ気味の感想になっております。

未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

ただ、この作中作を乗り越えた後からが、湊さんの真骨頂。まぁ、作中作も、

イヤミスの女王としては出色の出来なのかもしれませんが(本来の湊さんのイヤミス

描写とは全く違う味わいですが)。

榊の一人息子・至による、夏休みの自由研究のレポートから、独房での司朗による

至殺害の真相、そして、独房の司朗に面会に来たある人物との心理戦に至るまで、

真相が二転三転して、翻弄されました。いやー、騙されたなぁ。

真相の黒さにずどーん、と落とされた。これぞ、湊かなえって感じですかねぇ。

あまりにも皮肉な結末に、やりきれない気持ちになりました。父の愛、息子の愛。

どちらも行き違ってしまったことが、悲しかった。

黒幕の人物の腹黒さに、ただただ戦慄するだけだった。娘に対する仕打ちも

酷すぎるし。瀕死の状態にありながら、最愛である筈の娘に残酷過ぎる呪いを

かけて、暴言を残して逝ってしまうなんて、無責任にもほどがある。

 

 

 

人間を標本にするって発想自体、もうサイコパスとしか思えなかったんですが。

吐き気をこらえながら読んでました。しんどかった・・・。もともと、蝶々も

あんまり好きじゃないんですよね。鱗粉が飛ぶのが気持ち悪くて。モチーフ

としての美しさは理解出来るんですけどね(アナスイの蝶モチーフの商品なんかは

好きで、昔ネックレスやら財布やら買ってましたしね)。

でも、ミステリとしてはさすがの完成度だと思いました。イヤミスとしても、

湊かなえの本領発揮って出来になっていると思います。

グロ系が苦手な方は、少し注意が必要かもしれませんが。

ちなみに、本書は湊さんの作家活動15周年記念作品だそう。あの『告白』から

もう15年ですか。すっかりベテランのベストセラー作家さんになってしまった

なぁ。

15周年、おめでとうございます。これからも、イヤミス街道突っ走って

下さい(笑)。