ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

時代物、大好き ~ 京極夏彦/「巷説百物語」 ~

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お気に入り登録させて頂いている月野さんにお誘い頂き、「時代物、大好き」というテーマで
記事を書くことになりました。実はこのテーマで記事が書ける程、私は時代物を読んでいる訳
ではありません。むしろ好きな作家でもついつい敬遠しがちなジャンルであったりします。
ですが、そんな私でも何作かは愛している時代物があります。王道ではありませんが、今回は
それについて書きたいと思います。

そこで、今回取り上げたいと思ったのは、私が現在最も敬愛する作家の一人、京極夏彦さん
の「巷説百物語」です。続編が直木賞を取ったので、ご存知の方も多いと思います。

実はこれ、私にしては珍しく映像を先に観てしまった作品。WOWOWのドラマ「怪」
というのがそれ。主人公又市を田辺誠一さんがやっていて、映像も美しく、ドラマとしては
かなりの完成度の高さだったと思います。大好きな京極さんの世界を壊すことなく、見事に
映像化していて、感心した覚えがあります。このシリーズに関しては、確か去年辺りに違う
キャストで、しかも演出があの堤幸彦氏で再び映像化されたのですが、私個人の意見としては
初期のものの方が好きでした。と言っても、堤氏の方は作品全てを観た訳ではないので、一部
を比較して、ということになりますが。基本的に堤氏の演出のファンだし、又市役の渡部篤郎
さんも大好きな俳優さんなのですが、やはりイメージがちょっと違ったのですよね。
と言う訳で、映像から入ってしまった私の中では又市=田辺さんの図式が成立してしまい、
以後の作品は全部田辺さんのイメージで読んでしまってます。だって、あまりにもぴったりだった
ので。ちなみに、又市さんに関してはあの名作「嗤う伊右衛門」にも登場するのですが、
映画になった時に六平直政さんが演じていたのにはずっこけました(苦笑)。

さて、本書の内容ですが、語り手は古今東西の怪談奇談を集めて本にしようと画策している
物書きの山岡百介(ちなみに「怪」では佐野四郎さん、、堤版では吹越満さんが演じています)。
物語は百介が山中で豪雨に遭い、避難の為に雨宿りをした際に、又市を始めとする悪党一味と
出会う所から始まります。彼らはある仕掛けをする為にその場にいて、扮装をしています。
その正体は金で事件を解決に導く裏家業をしている存在だったのです。いわゆる「必殺仕事人」
ですね。百介は彼らと知り合うことで、その後様々な事件に巻き込まれて行きます。又市一味は
小悪党ですが、彼らのやることは一本筋が通っていて、百介はそんな彼らに魅せられて行きます。
事件には全て妖怪が絡んでいて、‘妖し’の世界を作っているのも、この作品の魅力の一つ。
実際に妖怪が出て来るという訳ではなく、この時代に跋扈していたであろう‘妖怪’たちの
仕業に見立てて、又市たちが策を弄する訳なのですが。その策は鮮やかでいて妖艶、なんとも
美しい妖しの世界を造り上げます。その妖しい美しさと、胸のすくような勧善懲悪。それを
支えるのが、京極氏の華麗な文章。私が思うに、京極さんは日本語というのを一番よくわかって
いる作家の一人だと思います。どこでどう文を繋げれば人は読みやすいのか、どこでどの漢字を
使えば見栄えがするのか、とか、日本語の持つ美しさを熟知した上で、とても計算された文章を
書かれている。文章が次ページに跨らないように拘ってる所からも、それは顕著だと思います。
何気なく書かれた文章も全て計算されていることに気付いて読むと、また違った京極さんの
楽しみ方が出来るのではないでしょうか。

本物の妖怪小説とは違いますが、京極流の‘妖し’の世界は十分堪能できるし、何より、
小悪党たちが人間に巣くう‘怪’を壮大な仕掛けで成敗していく様は、小気味よく痛快です。
鈴を鳴らしながら「御行奉為(おんぎょうしたてまつる)」と登場する又市さんが何とも言えず
格好良いのです(六平さんを想像してはいけません^^;)。

壮大なスケールの時代小説の後には、是非、こんな風変わりな妖怪時代小説はいかがでしょうか。
きっと、京極夏彦の世界に引き込まれますよ。