ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

京極夏彦「遠巷説百物語」(角川書店)

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久しぶりの巷説シリーズ!!相変わらずのお弁当箱本で嬉しいです←え?w

でも、今回は600ページも超えてないくらいだから、まだ少ない方ですかね←えw

舞台は江戸から遠く離れた遠野に移り、主人公も遠野南部家当主の密使として

暗躍する宇夫方祥五郎。遠野保の民草に流れる噂話を調べ、真偽を見極めて逐一

当主の義普に報告せよとの密命を受け、巷の動向を探っていた。すると、巷の

世事に詳しい乙蔵から、遠野南部家御用達の菓子司の山田屋から、座敷童衆が

出ていったのを見たと告げられる。山田屋の内情を聞くと、当主の息子が嫁を

娶ってから変事が続き、息子は病で寝たきりになり、客足も途絶えがちだという。

当の嫁も人前に出なくなり、奥座敷に籠もっているらしい。そして、嫁が人前に

出なくなった時期と、乙蔵が座敷童衆を目撃した日は重なっていた。山田屋の

背後に何があるのか――(歯黒べったり)。

妖怪譚と、実際の市井の出来事と、裏で暗躍する仲蔵や柳次一味の仕掛けが見事に

一本の線で繋がって、どのお話も見事と言うしかないです。なんでこんな複雑な

お話がわかりやすく書けるのか、京極さんの頭の中は一体どうなっているのだ。

どの作品も、妖怪<譚>と市井の<咄>と、すべてのからくりが明らかになる<話>

の、三つのハナシで構成されています。抜群の構成力。やっぱりこのシリーズは

すごい。時代ものが基本的に苦手な私が、これほど面白く読めてしまうのだから。

又市さんが出て来ないので、若干読むテンションが下がり気味ではあったのですが、

それもラストの一作で覆して下さいましたし(出番は少ないですが、ちゃんと活躍

します!)。

遠野は中学生の頃修学旅行で行ったことがありまして、確かに、不思議な怪異譚が

たくさんありそうな場所だなぁと思った覚えがあります。その土地に伝わる民話が

たくさんあるんですよね。もちろん、遠野物語でご存知の方も多いですよね。怪異が

集まる場所として、この土地を京極さんが取り上げられるのは自然の流れと云える

かもしれません。遠野物語とのコラボ作品なんかも書かれていますしね(読んで

ないけど^^;)。

本書で活躍する祥五郎のキャラクターもいいですね。人情に厚く、正義感が強く、

一本筋が通っているようなところがあって。最終話の乙蔵との友情には涙腺

崩壊しそうになりましたよ。乙蔵はいい加減なやつかと思っていたけれど、友を

助ける為に、身を呈するところには心をぐっと掴まれてしまった。乙蔵のその後が

とても心配だったけれど、それも最後にほっとさせてくれるフォローがあって

良かった。どのお話でも、人情味や哀切やいろんなものが加味されていて、

どれも良かったなぁ。

祥五郎と『恙虫』の章で出て来た志津さんはいい雰囲気になりそうだよなーと

思っていたので、ラストで明らかになる後日談には嬉しくなりました。その『恙虫』

のお話は、疫病がテーマなので、コロナ禍の今にも通じるものがあるな、と思い

ながら読んでました。結局、志津の父や親戚たちは疫病が原因で亡くなったわけでは

なかったのだけれども。

座敷童衆役の花ちゃんのキャラも効いてましたね。一応その身の上に関しては

言及があるものの、最後まで謎のキャラだったなぁ。これからは、普通の女の子

として幸せに生きて欲しいものです。

シリーズ作品を読んだのが前過ぎて、又市さん以外の登場人物をほとんど覚えて

いなかったので、仲蔵や柳次のことをすっかり忘れていました。おぎんさんは覚えて

いたけど、出て来なかったし(これも残念!)。これから読まれる方は、多少の

おさらいはしておいた方が良いかもしれません。まぁ、でも、覚えて

なくても大した問題ではないです。これはこれで単独でも十分楽しめる作品に

なっておりますので。又市さんが対峙している大きな敵との戦いも、これから

書かれるのでしょうね。現在続きを連載中だそうなので。次の巻は、また又市

一味が主役になるのかな。そうだと嬉しいけれど。今回登場した又市さんは

かなりの年齢になっている筈だけれど、あんまりそうは感じなかったな。百介

さんが出て来なかったのも残念だったけど、相変わらず巷説を集めて回っているの

かしらん。

巷説シリーズ、11年ぶりの新刊が出たということは・・・もう、そろそろ、

あっちの方も再始動してくれないかなぁ!

・・・でも、巷説の次の巻の方が先に出そうだな(連載中らしいから)。

京極ファンがずっとずっとずーーーーーっと待っている、京極堂に会えるのは

一体いつになるんだろうか。はぁ(京極さんの作品の記事はだいたいこれで

〆る←お約束w)。