ミステリ読書録

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浅田次郎/「プリズンホテル <1> 夏」/集英社文庫刊

浅田次郎さんの「プリズンホテル <1> 夏」。

小説家の木戸孝之介は、父親の七回忌で久しぶりに再会した叔父の仲蔵から、温泉リゾート
ホテルのオーナーになったと聞かされる。招待を受けた孝之介が、囲っている愛人の清子
と供にやって来たそのホテルは、何と任侠団体専用!?「奥湯元あじさいホテル」――人は
それを「プリズンホテル」と呼ぶ――人情と任侠が交わる、涙あり、笑いありの二泊三日の
ホテルツアーへようこそ!


かねてからたいりょうさんにお薦めされていた本書。いつも読みたいと思いつつ、何故か
図書館に行くといつも「夏」だけ貸し出し中だったりして読めずにいました。先日、職場で
頼まれたおつかいついでに寄った本屋で売っていて、ようやく手にすることが出来た、という
次第。図書館本も山積みなんですが、ふと手を出したら止まらなくなりました。

私はもともと仁義とか義理とか人情とかに弱いです。それに加えて任侠漫画が好きです(
ごくせん」とか先日読んだ「アラクレ!」とか)。ぶっきらぼうな優しさとか、侠気とか、極道の
人たちの熱い義理人情を読んでると、こちらまで姿勢を正したくなってしまう。そんな訳で、
本書の設定はどれもかしこも全部私の好みで埋め尽くされていました。
本書に出てくる極道の面々はみんな素敵な人物ばかり。言葉はもろにヤクザだし、行動も
はっきり云って怖いけど、礼儀正しく自分の職務を全うしようとする姿勢がいい。うう、好きだ。
特に仲蔵叔父がいい。ヤクザの大親分だけあって、しっかり一本筋が通っているし、支配人花沢を
雇うエピソードといい、ホテルに出る幽霊家族に纏わるエピソードといい、もう、義理人情の
人そのものじゃないですか。な、泣けるぜ・・・おやっさん!(誰だよ^^;)
あと、支配人花沢がまた実にいいキャラクター。職務を全うする実直さ故、酷い扱いばかり
を受けて来たのに、全然歪んでない所がすごい。たらい回しにされたそれぞれのエピソード
にもひたすら感動。実直すぎる人柄にやられました・・・。

このホテルにはいろんな人たちがやって来て、それぞれに抱える辛い思いがあるのだけれど、
この任侠だらけのホテルが彼らの癒しとなって、頑なになった心を溶かして行く。
その課程が実に自然に、楽しく、流麗な筆致で描かれています。いいなぁ、浅田さん。
悲惨なエピソードも何故か笑いに変えてしまう、不思議な魅力。でも、笑えた後には必ず
じーんと胸に来るような感動がある。ああ、面白かった。
他のブロガーさんに倣って星付けをするとすれば、☆4.9といったところ。どこが
マイナスかというと、冒頭から出てくる小説家木戸の女性への暴力的態度の部分。
のっけからそれだから、弱冠引いてしまった部分もありました。まぁ、読み進めて行くと
彼のそういった性格にも理由があることがわかるんですが。それにしても読んでいて
気持ちの良いものではなかったので。でも、限りなく5つ☆に近い作品です。

私の拙い文章では到底この小説の魅力がお伝えできないのが残念。是非、たいりょうさんの
ブログでレビューを読んで頂きたいです。とにかく、私が言えることは、なんでもいいから
読め!ということだけです。心の底から楽しめる、これぞ娯楽小説!という作品。
浅田さんのあとがきがまた洒落ていること!このあとがきを読んで「ああ、二泊三日の
旅が終わったな」という気分になりました。また、プリズンホテルに逗留したい、と
思えるような、心づくしを感じました。
ああ、続きが読みたい。また、浅田文章に旅をしたい。そんな、小説です。


たいりょうさん、素敵な小説に出会わせて下さり、本当にありがとうございました!
(レビューが上手く書けなくて、すいません・・・)