ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

神永学/「コンダクター」/角川書店刊

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神永学さんの「コンダクター」。

フルート奏者の朽木奈緒美は、毎夜の悪夢に悩まされ、心理カウンセラー松崎の元を訪れる。
夢には、大学のオーケストラホールで、黒いパーカーのフードをすっぽりと被り、手に髑髏を
持った男が毎回現れる。松崎によると、その男は奈緒美の知り合いの可能性が高いというの
だが、奈緒美には全く心当たりがない。松崎の診察では、奈緒美は部分健忘症、つまり、ある
一時期の特定の記憶だけを失った状態だという。そんな奈緒美のもとに、音大時代の友人、
結城がドイツ留学から帰国した。今度奈緒美が参加するミュージカルオーケストラの指揮者に
抜擢されたのだ。結城は奈緒美の親友・秋穂のかつての恋人だった。秋穂は、奈緒美と結城、
共通の友人であるピアノ奏者の玉木との結婚を控えているところだった。結城の帰国により、
彼らの仲に不穏の空気が流れ始め、奈緒美は気が気でない。一方、国立のアパートの一室
で首のない白骨死体が発見される。死体は一枚の写真を握っていた。その写真に写っていたのは
・・・いくつもの出来事が絡み合い、事件は複雑な様相を見せ始める。緊迫した事件の驚愕の
真相とは――。



書店で装丁とタイトルを見て絶対読もう!と決めていた作品。表紙がめちゃめちゃ好みなんだもん。
指揮者(コンダクター)っていえば、『のだめカンタービレ』の千秋先輩を思い出すし、かっこいい
職業で憧れます。
というわけで回って来るのを楽しみにしていたのは確かではあるのですが、正直そんなに期待して
いたわけではありませんでした。だって、神永さんといえば『心霊探偵八雲』のライトな作風を
知っているし、あのシリーズみたいにどうせドラマのシナリオ向けのようなゆるい作品なのだろう
と予想していたので・・・(いや、八雲好きなんですよ!あんま読んでる人いないけどっ)。

ところが。これが予想外に面白かった。思ったよりもずっときちんと本格テイストでびっくり。
こんなちゃんとしたミステリーも書けるんじゃないかー(酷)。ただ、中盤までは視点がころころ
変わるし、その視点の人物がみんな好感が持てないので、かなりムカムカしながら読みました。
似たような表記の繰り返しでくどさもあり、冗長な印象は拭えない。文章自体は読みやすいので
ページは進むものの、展開の遅さにはちょっとイライラしました。何より、タイトルの『コンダ
クター』に相応するであろう結城の人物像があまりに酷いので、かなりがっかりしていました。



・・・が。







以下思いっきりネタバレ。未読の方はご注意を!















どうやら結城は単なる駒の一つに過ぎない、 真の『コンダクター』は違う人を指すと
気付いてからは、一体誰がそれに当たるのかずっと考えながら読んでました。まぁ、多分
その人物だろうな、とは思っていたので、この真相にはさほどの驚きはなかったのですが。
一人二役は想像していたのですが、まさか三役までとは・・・これはちょっとやられました。
こういう手法は使い古された感もありますが、ここまで緻密に仕掛けられれば充分ミステリ
としての驚きは味わえました。実は私は松崎=新垣なのではないかと思っていたんですよね。
完全に推理が違う方向に行ってしまいました^^;でも、新垣はやっぱり黒幕側だったなー。
絶対コイツ何かある!って思ってたので、やっぱりね~って感じでした。

ただ、奈緒美が悪夢を見始め、『コンダクター』が仕掛けを開始した時期に、ちょうど結城が
父親の危篤で帰国したというのはちょっとご都合主義的なものを感じました。結城の帰国も
仕組まれたものであれば腑に落ちたのですが、これは単純に彼の意思によるものなので。
ちなみにこの事件をコンダクターに依頼したのは死んだ雨宮礼司の母親ですよね。彼女は礼司が
同級生に殺されたことに感づいていたということなんでしょうか。コンダクターは殺し屋だから、
誰かを殺してくれと依頼したことは確かだと思うのですが・・・彼女の依頼内容が気になりました。

ラスト1ページの奈緒美の『あの人は私の――』に続く言葉はやっぱり『初恋の人』なんで
しょうか。初恋の人はオーボエ奏者で、松崎も音楽をかじったことがあると冒頭で言っているし。
ただ、彼女の初恋の人は結婚して引っ越したと言ってるから、松崎は既婚者ということになりますが・・・。
それに、奈緒美が中学に上がる前に結婚ということになると、10歳くらいは離れていないと
おかしいと思うのですが、冒頭で松崎の外見は20代後半って表記があるから矛盾してしまう。
既婚って感もしなかったし・・・うーむ。真相が気になります。


で、結局表紙の男は一体誰だってことになるんですけど・・・松崎だと絵が若すぎる感じもする
んだけどなぁ。でも結城だとは思いたくないし、やっぱりこれは松崎ですよね(そうだと
思いたい)。







八雲シリーズとは打って変わって、なかなかどっしりとした読み応えのあるミステリーでした。
八雲シリーズが軽くてダメと言う人も、こちらなら楽しめるのではないかな。逆に、八雲が
好きな人には、ちょっと毒が強くて、後味も良くないので受け入れられないかもしれませんが^^;
個人的には予想外に面白く読めました。神永さん、見直しちゃったな~(偉そう)。読み逃してる
『山猫』とか『タイムラッシュ』とかも読まなきゃいけない気がしてきたよ・・・。