ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

道尾秀介/「花と流れ星」/幻冬舎刊

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道尾秀介さんの「花と流れ星」。

福島県白峠村の事件を解決した真備たちは、ホラー作家の道尾のはからいで海辺の宿を取って
一泊旅行にやってきた。夜、買い出しの為に一人で外出した凛が、買い物を終えてバス停の
ベンチで一休みしていると、後ろから声をかけられた。振り返ると、民家の窓越しに一人の
少年が凛の方を伺っていた。二人で話を続けているうちに、少年は彼の友人に起きた悲惨な事件
の話をし始めた。友人の両親は友人がいる家の中でめった刺しにされ殺されたというのだ。しかし、
現場は犯人の逃走が不可能な状況だった。少年は、凛に『犯人がどうやって逃げたか当ててみて』
というのだが――(「流れ星のつくり方」)。心に傷を抱えた人々が織りなす、5つの物語を収録。
真備シリーズ第三弾。


真備シリーズの新刊が近々出るらしいということは漠然と聞いていたものの、それが実際いつの
ことなのかは全く知らずにいたので、昨日二週間ごとに行く隣町図書館の『本日発売された
図書』のコーナーに本書が置いてあった時は我が目を疑いました。出ていたこと自体もそうだし、
それが普通に開架状態で置いてあることにもビックリしました。だいたい、地元の図書館では
人気作家の新刊は入荷前予約をしている人が必ずいて、普通に開架扱いで置いてあるなんて
ことはまずあり得ないことなので。そこには本書だけでなく、その日発売された人気作家の
新刊がずらりと並べてあり、ここは新刊書店か!とツッコミを入れつつ、一人大興奮。だって、
伊坂さんや有川さんの新刊もあったんだもの。伊坂さんは地元図書館で発売日に予約してた
のだけど、いちはやく借りれてラッキー。多分、ちょうど司書の人が並べたばっかりだったの
でしょうねぇ。あまりのラッキーさに眩暈がしました。こんなことってあるんですねぇ・・・。
多分少しでも行くのが遅かったら全部借りれてなかった筈。その証拠に、手にしなかった
他の新刊本(真保さんの新刊なんかはちょっと面白そうなタイトルで気になったのだけど)は
館内を一巡しているうちに誰かに持ち去られていましたから。

と云う訳で、信じられない偶然が重なり、図書館本なのに驚異的な早さで読むことができました。
信じられない偶然といえば、前作の『骸の爪』を読んだばかりというこのタイミングの良さにも
びっくり。うーん、何か霊的な運命さえ感じるぞ(シリーズの内容が内容だし)。きっと、
やっぱり私はこのシリーズとは相性がいいに違いない。うん。

前置きが長いって^^;さて、肝心の内容ですが、本書は真備シリーズ初の短編集となって
おります。一作目に収録されている『流れ星のつくり方』だけはアンソロジーで既読でしたが、
再読してもやっぱり巧いなぁと思わされました。ただ、それ以外の作品は道尾ミステリにしては
短編だからか、仕掛けの派手さもなく、ミステリとしての驚きは控えめかな、という感じ。でも、
心に傷を持つ登場人物たちの感情の機微が巧みに描かれ、切なかったりやるせなかったり、
余韻の残る読後感を与えるものが多かったです。真備や凛という主要登場人物が抱える重く
切ない想いも描かれ、無機質な印象だった登場人物たちがより人間らしく、身近に感じられる
ようになった気がします。
道尾さん、一作ごとに作品に深みが増しているように思います。最近はトリッキーなミステリ
部分よりも、人間心理の部分を重視した作品にシフトしてきているのかな、という感じがしますね。



以下、各作品の感想。

『流れ星のつくり方』
既読。出だしってこんなだったっけ?と、読んでからそんなに経ってないのにもう設定を
忘れかけていました・・・^^;『背の眼』の事件の直後のお話。すぐそばで両親が殺されて
いるのにも気づかず、ラジオを聴いていたことを後悔する少年の心がやるせない。どうする
こともできなかったことはわかっているのだろうけど。それでも・・・。彼が将来『なりたい』
といった職業、どちらも今の状況では無理なことも、また。

『モルグ街の奇術』
冒頭に「ポーの『モルグ街の殺人』の真相に触れている記述がある」との注意書きがあるけれど、
実際読んだことのない人はこの作品をどうするんでしょうか。私は知ってたから良かったけど、
読んでなくても開き直って読んじゃう人がほとんどじゃないのかなぁ。わざわざこの作品を
読む為に『モルグ街』に当たる人もいるかもしれないですけど。しかし、この真相はかなり
エグいです。想像したくないし、実際そんなことあり得るのかなぁとちょっと疑問・・・。
でも、真備が男を避けるために柿の種でバリケードを作るところがかなりツボでした。こういう
道尾さんのセンスが大好きなんですよ。柿の種だよ、だって。全然バリケードになってない
じゃん(笑)。ささやかすぎる真備の抵抗が笑えました。

『オディ&デコ』
これも道尾と真備の会話が笑えました。鼻声でしゃべる真備がなんだか可愛らしくて滑稽で、
面白かった。白い猫の幽霊の真相には『ああ、なるほど』と思いました。これは『ラットマン』
に通ずるものがあるかな。ラストの道尾の明るさに凛同様、救われた気持ちになりました。
タイトルの本当の意味は・・・それぞれ漢字一文字で置き換えられますね。これも真備
シリーズらしい言葉の置き換えだと思います。ちなみに、またカラスが出てきました(笑)。

『箱の中の隼』
怪しげな宗教団体に捕まっちゃっう道尾さんの身が心配になりました。真備もひとが悪いなぁ。
建物も人も食べ物も、すべてが真っ白な世界・・・考えるだけで嫌だ。ボールペンのシーンは
読んでるこちらも息が止まりました。でも、こういうシーン、ドラマとかでそういえば見たこと
あるなぁ、と思いました。仏像もなかをアレのお返しに持ってくる道尾のセンス、好きだな(笑)。
でも、彼の想いは報われそうにないのがなんとも・・・。時系列的に言うと、『骸の爪』の
事件の翌年の三月の出来事。

『花と氷』
ただただ、やるせない。こういう事件は、世の中にいくらでも例があると思うけれど、やっぱり
やりきれない想いしか残りません。子供の親の気持ちもわかるけれど、自分を責める薪岡老人の
気持ちが痛い程突き刺さって、辛かった。彼の策略を止める人がいて本当に良かったと思う。
私も、真備が言った通り、彼の企みが成功した時、関わった子供たちの心には一生しこりとなって
残ってしまったと思うから。でも、この後どうやって生きて行くんだろう。そのことを思うと、
やっぱり辛い。凛と真備の氷の想いも、いつか溶ける日が来るといいな、とおもう。



時系列がばらばらなので、いまひとつ整理しきれてません。明記されているものもあるのですが。
まぁ、ばらばらでも別に差しさわりがある訳ではないのですけれども。道尾と真備の会話とか
かなりツボにはまって笑えました。ちょこちょこと道尾さんの感性やセンスが光っていて、
楽しく読めました。面白くて、あっという間に読んじゃった。
やっぱり、このシリーズ好きだなぁ、私^^