ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

「Annyversary 50」/カッパノベルス刊

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「Annyversary 50」。

カッパノベルス創刊50周年を記念作品。「50」をお題に、9人の作家による豪華書下ろし
アンソロジー。寄稿作家:綾辻行人有栖川有栖大沢在昌島田荘司田中芳樹道尾秀介
宮部みゆき森村誠一横山秀夫


道尾さんのHPで存在を知って、絶対読もうと思って楽しみにしていたアンソロジーカッパノベルス
創刊50周年記念ということで、すべての作家が「50」をキーワードに、このアンソロジーの為に
短編を書き下ろしたという、贅沢な一冊。ということで、出た早々に嬉々として購入していたのだ
けれど、いつものごとくに図書館本との兼ね合いで後回し後回しになってしまい、なかなか読めずに
4ヶ月も経ってしまいました。読み始めてはたと気づいたら、帯の所に9人の作家により書下ろし
サイン色紙プレゼントのお知らせが・・・とっくに締め切り過ぎてたーーー(ToT)。まぁね、どうせ
応募したって絶対当選なんかしてないとは思うけれど(5名だけだし)。でも、でも、せっかく
買ったのに・・・やっぱり、読みたいと思って買った本はさっさと読まなきゃダメなのね。くすん。
それにしても、ラインナップすごいですね。よくまぁ、このメンツ集めましたよ。さすが
50周年記念。カッパノベルスはちょこちょこ読んで来たけれど、もう50年も歴史がある
んですね。知らなんだ。一応、全員一冊は読んだことがある既読作家ばかり。そして、たった
一冊しか読んだことがない(アンソロジーで短編とかはあるけれども)大沢・森村作品も、
なんと、そのたった一冊の既読シリーズのキャラが登場していて、思わぬ再会に喜びも
ひとしお。宮部さんのは多分時代物のどれかのシリーズキャラなのだとは思うけれど、宮部
さんの時代物はほとんど読んでないのでわかりませんでした。ノンシリーズを書いたのは
多分道尾さんと田中さんかな?田中さんは学生時代にはまっていたけれど最近は読んでない
から全然わかりませんでしたが(シリーズキャラっぽい人は出て来てない感じでした)。
各作家それぞれに「50」の切り口が違って、なかなか面白かったです。ダントツに良かった
っていうのもなかったのですが(しいて云えば横山さんかな)、普通に短編として楽しめる作品
が多かったです。


では、各作品の感想を。

綾辻行人「深泥丘奇談――切断」
深泥丘シリーズ。50個のパーツに分けられたバラバラ死体の謎とは?
相変わらず妖しさ(怪しさ?)いっぱいで、独特の酩酊感があっていいですね、このシリーズは。
深泥丘病院のいわくありげな三人の石倉医師や謎の崎谷看護師も登場。そして、「私」の奥さんが
今回もいい味出してます。それにしても、******って何なのよ――!?(気になるよぅ)

有栖川有栖「雪と金婚式」
火村シリーズ。結婚50周年の金婚式をお祝いした翌日、離れで死体が発見され――。
他の地域では止んでいた筈の雪が降っていた理由が素敵です。有栖川さんらしい詩的表現も
ちらほら伺えるし、「らしい」作品に仕上がっていると思います。鮫山警部補や船曳警部、
「妃は船を沈める」に出て来た女刑事の高柳さんなど、お馴染みのキャラも勢ぞろいで嬉しい。

大沢在昌「五十階で待つ」
新宿鮫シリーズ。次の『新宿のドラゴン』になるべく、ホテルの50階に向かった男の運命とは?
一作目の『新宿鮫』しか読んでないけれど、鮫島さんが出て来て妙に嬉しかった自分がいました
(何でだ)。あっけない幕切れに拍子抜け。そういう話だったか。

島田荘司進々堂世界一周 シェフィールド、イギリス」
御手洗シリーズ。御手洗が出会ったIQ50の知的障害を抱えた重量挙げ選手との思い出とは。
御手洗さんとの再会はとっても嬉しかったのですが・・・ミステリはどこに行ってしまったの
ですか、島田さん・・・。一体何が書きたかったのやら^^;

田中芳樹「古井戸」
ノンシリーズ?(わからず)暴君によって殺され古井戸に捨てられた女は、死ぬ直前に「おまえの
家の五十代目の子孫に祟ってやる」と叫んだという――。
一番乗り切れなかった。本当に怖いのは幽霊でも呪いでも祟りでもなく人間の○○――という教訓譚?

道尾秀介「夏の光」
ノンシリーズ(多分)。野良犬殺しの決定的瞬間を写したという写真の裏に書いてあった『ISO50』
の文字から『私』が気づいた真実とは?
やっぱり道尾さんは巧いなぁ。写真に写っていた『赤い水』の真相に温かい気持ちになりました。
読んだばかりの『光媒の花』の後半の作品に通ずるものがありますね。最近は家族の絆をテーマに
することが多いようです。

宮部みゆき「博打眼」
何のシリーズなのかわからず。江戸の醤油問屋近江屋に飛んで来た50の眼を持つ<博打眼>とは?
江戸怪談話なので「あやし」とかのシリーズなのかな??主人公は近江屋の七歳になる娘、お美代ちゃん。
畠中恵さんのしゃばけシリーズのようなちょっととぼけたほのぼのした味わいの怪談話。お美代
ちゃんと阿吽のやりとりに微笑ましい気持ちになりました。

森村誠一「天の配猫」
棟居シリーズ。上京したばかりで全財産を摺られた男。荷物の中には郷里の両親に宛てた手紙と
四枚綴りの50円切手が入っていた――。
このシリーズは『人間の証明』しか読んでないのですが、相変わらず棟居さんは渋いですね。
書下ろしの筈なのに、全体的に昭和な香りがするのは何故なんでしょう・・・。複数の視点から
書かれる分、戸惑いながら読んでましたが(下着泥棒のパートはドン引きだったし^^;)、
ラストではそれぞれがきちんと繋がり、溜飲が下がりました。

横山秀夫「未来の花」
『臨場』の倉石シリーズ。民家で起きた殺人事件の意見を求めに病室の男を訪れた警部。男は
なぜか看護師から『五十さん』と呼ばれていて――。
何を隠そう、本書を『買おう』と思ったのは綾辻さんでも有栖川さんでも道尾さんの名前でも
なく、この横山さんの書下ろしが入っていると知ったから。本気で断筆したかと心配していた
ので、作品が読めて本当に嬉しい。そして、倉石さんに再会出来たことは二重に嬉しかった。
でも、倉石ファンにとってはショックな事実も。それにしても、やっぱり横山さんの短編は
巧い。ページ数は他の人に比べてかなり少ないのに、完成度の高さはダントツなんじゃないで
しょうか。きちんと、カッパノベルス50周年を匂わす表記も含まれているところがニクイ。
余韻の残るラストの落し方もさすが。職人芸ですね。出ると予定していた『ロクヨン』は一体
いつになるのでしょうか・・・。





まぁ、出来にばらつきはありますが、各作家の代表的なキャラ大集合で愉しく読める一冊
でした。こういう記念企画もいいものですね。各作品の扉ページの、各作家による一言メッセージ
でも、それぞれの作家のカッパノベルスへの愛が伺えました。
50周年、おめでとうございます^^