ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

道尾秀介/「カササギたちの四季」/光文社刊

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道尾秀介さんの「カササギたちの四季」。

開店して2年。店員は2人。「リサイクルショップ・カササギ」は、赤字経営を2年継続中の、
ちいさな店だ。店長の華沙々木は、謎めいた事件があると、商売そっちのけで首を突っ込みたがるし、
副店長の日暮は、売り物にならないようなガラクタを高く買い取らされてばかり。でも、しょっちゅう
入り浸っている中学生の菜美は、居心地がいいのか、なかなか帰ろうとしない―(あらすじ抜粋)。


道尾さんの新刊。ここ最近の作品は直木賞を意識してかそうでないのか、人間心理を中心とした
文芸よりの作品が多かったのですが、本書は久しぶりにミステリを軸にした連作中編集。
うん、私の好きなミッチーが帰って来たゾ、と嬉しくなるような内容でした。ミステリと
言っても、人が死なない日常の謎系で、ちょっぴりコミカルでちょっぴりほろりとさせてくれる、
心温まる連作集。
主人公を始め、主要登場人物のキャラ造形がとても良いですね。特に、リサイクルショップに
勤める主人公の日暮(ひぐらし)と、店長の華沙々木、その華沙々木を慕う中学生の少女菜美、
三人の関係と会話が好きでした。毎回気が弱い日暮にロクでもないものを売りつける黄豊寺の
住職もいい味出してて良かったですね。

謎めいた事件が起きる度に、好奇心旺盛な華沙々木は自ら首を突っ込んで、探偵役を買って出て
一応の謎解きをするのですが、いつもそれがトンデモない推理。華沙々木を慕う中学生の菜美を
がっかりさせない為に、日暮は謎解きの前に華沙々木から出されるヒントを元に、『華沙々木が
考える真相』を推理して、その推理が『正しいものだと思える』ように細工して華沙々木の推理
をフォローします。日暮の涙ぐましい努力の甲斐あって、毎回華沙々木は菜美にとっては『名探偵』
の対面を保つことが出来るのです。日暮にとっては、そうしたことで何ひとつ報われることもなく、
メリットもないこの努力は、ひとえに、菜美が笑顔でいる為。といっても、別に日暮が菜美に
恋愛感情を持っている訳ではなく、おそらく、ある事件によって傷を負った菜美のような子供に
悲しい顔をさせるのが嫌だからという、日暮の人柄ゆえ。日暮の思いやりで、華沙々木が自分の
間違った推理にがっかりすることもなく、菜美が華沙々木の情けない姿を見ることもなく、二人の
世界が平和に保たれるのですね。誰に知られることもなく、ひっそりと陰から頑張る日暮の努力に
ほろりとしました。道尾さんの優しい世界観が表れている作品集になっていると思います。ちょっと
真備シリーズに似ているところがあるかも。リサイクルショップの二人の関係は、なんとなく
三浦しをんさんのまほろ駅前シリーズを思い出しました(二人の性格は全然違うのですが^^;)。
やっぱり、道尾さんにはミステリを書いていて欲しいな。面白かったです。


以下、各作品の感想。

『―春― 鵲の橋』
リサイクルショップ・カササギの倉庫で起きた放火未遂事件。狙われたのは、売約済みの
札を貼ったブロンズ像。事件の二日後、店にハンカチを落としたという少年が訪れた。事件と
少年には何か関係がありそうなのだが――。

ポラロイド写真って、こういう特性があるんですね。知らなかったです。放火未遂犯の動機
はやる瀬ないもので、原因を作った人物の行動には腹が立ちました。でも、少年の母を思う心に
ほろり。

『―夏― 蜩の川』
閑古鳥が鳴く日暮たちの店に、老舗の木工所から、新しい従業員の部屋の為の家財道具一式を
揃えて欲しいという大口の依頼が来た。早速軽トラックで顧客の元に駆けつけると、鳥居が
神輿になる予定のご神木が傷つけられるという事件が起きていた。例の如くに好奇心に駆られた
華沙々木が事件を解決すると言い出した――。

ご神木を傷つけた犯人は、大抵の人が当てられちゃうんじゃないでしょうか。ただ、その動機は
予想外のものでしたが。ちょっと動機に関してはガッカリだったかなぁ。自分勝手過ぎ。周りの
好意を無にした犯人の思惑が残念でした。なでしこの花言葉って『純愛』なんですね。日暮は、
男女の間だけじゃないって言ったけど、もしかしたらそういう意味も込められていたのでは
ないかなぁ。

『―秋― 南の絆』
一年前の秋、リサイクルショップ・カササギの元に、高級な家財道具を安値で引きとって欲しい
というVIPな依頼が来た。依頼主の元を訪れると、引き取る家財道具はすべて、その家の元亭主
のもので、依頼主はその妻だった。そして、その家には小学6年生の一人娘がいた。彼女は、
父親の家財道具が運びだされる様を悲しい目で見つめていた――。

日暮たちと菜美の出会い編。泥棒の正体には驚かされました。その動機に切ない気持ちで
いっぱいになりました。でも、犯人が日暮とした『約束』が、きっといつか果たされる日が
来る筈です。日暮も、それを見届けるまでは、菜美の成長を陰から見守って行くのでしょうね。

『―冬― 橘の寺』
いつも酷い目に遭わされて来た黄豊寺の住職から、みかん狩りに誘われ寺を訪れた日暮たち。
寺には中学二年になる住職の一人息子・宗珍がいて、菜美とも仲良くなった。寺で楽しい
時間を過ごすうちに外では雪が降り出し、帰れなくなった日暮たちは一泊させてもらうことに。
すると、明け方、寺に泥棒が侵入し、住職が大事にしていた亡くなった妻との思い出の貯金箱が
割られていた。いつもの如くに首を突っ込んだ華沙々木が指名した犯人は、意外な人物だった――。

住職が意外にいい人で、息子の宗珍君も今時の若者とは思えないくらいの純朴で心の優しい
出来た少年で、いい親子だな、と思いました。住職が、蜜柑の接木を例に出して宗珍に諭す
言葉にじーんとしました。
でも、一番意外だったのは、菜美が日暮のことを実は良く見ているってところかな。やっぱり、
彼女は勘の鋭い子だったということなんでしょう。きっと、日暮の陰の努力にも気付いているけど、
気づかないフリをしてあげてるのでしょうね。実は最初の1,2編ではあまり彼女の印象は良く
なかったのですが、後半二編でガラリと印象が変わりました。



ちょこちょこと時折ツボに来るような細かいエピソードが挟まれているところが良かったです。
華沙々木の愛読書がマーフィーの法則だとか、いつも冒頭で出て来る気が弱い日暮と黄豊寺
の住職とのコントみたいなやり取りとか。何気ないところに現れる道尾さんのセンスが好きなん
ですよね~。日暮の、気弱だけど優しいキャラクターが生きているな、と思いました。
是非また彼らには再会したいですね。