ミステリ読書録

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横溝正史/「八つ墓村」/角川文庫刊

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鳥取県岡山県の県境にある山中の一寒村、八つ墓村。三百八十余年の昔、三千両の黄金を積んで
八人の落ち武者たちがこの村に落ちのびた。初めは快く迎え入れた村人たちだったが、次第に黄金
に目がくらみ、八人すべてを惨殺してしまう。若大将は臨終の際、七生までこの村を祟ると言い
遺して息絶えた。その後村では怪事が続き、黄金の在り処も杳として行方が知れなかった。惨殺
された落ち武者たちの祟りを恐れた村人たちは、彼らの首を手厚く葬り、八つの墓を立て、明神
と崇め奉ることにした。これが八つ墓村の由来であった。時を経て大正×年、再び八つ墓村
日本中を震撼させる恐るべき連続殺人事件が起きる。落人襲撃の発頭人・多治見庄左衛門の子孫・
多治見要蔵が突然の乱心により村人を次々と惨殺。のべ三十二人を虐殺し、山へ逃げ込んだまま
消息を絶った。警察や消防団による村の自警団の必死の捜索にも関わらず、要蔵の生死は不明の
ままであった。そして、二十六年の歳月が流れた昭和二十×年。神戸にいた要蔵の長男・寺田辰弥
八つ墓村に呼び戻されたことをきっかけに、再び村は酸鼻極まる連続殺人事件に襲われる――。


はい。と云う訳で、私の最も敬愛する本格ミステリ作家の筆頭、横溝正史様の超絶有名作
八つ墓村』でございます。一応書庫は古典本格の方に入れたのですが、実は映像であまりにも
何度も観ていた為、読むのは初めてです、たぶん(なにぶん、正史の作品はいちどきにががーっと
読んだせいで、どれを読んだか読んでないか、いまひとつ把握しきれておらず、もしかしたら
読んでいる可能性がなきにしもあらずだったりする状態でして・・・^^;)。こんな有名な
作品を読んでなかったのか、お前は!と正史ファンから総スカンを食らいそうですが、映像
観ちゃった作品って結構読み逃してるんですぅ・・・(実は『犬神家~』も持ってるけど
読んでない^^;;)。

なんだか突然無性に正史が読みたくなりまして、どうせなら夏だし思いっきりホラーテイストの
ものを、と思ってこれを選んだのですが・・・ありゃ、思ったほど怖くなかった^^;でも、
どーですか、この表紙。表紙だけ見ると、もうめちゃくちゃ怖いでしょう。この角川の黒背表紙
シリーズの表紙って、ほんっとにどれも怖いですよねぇ・・・。

さて、本書と云えば、冒頭に出て来る懐中電燈を顔の両脇につけた男による三十二人虐殺の
シーンがあまりにも有名ですね。あのシーンは、子供が観たら間違いなくトラウマになること
必死の、身の毛もよだつ名場面(?)です。初めて映像で観た時は衝撃でしたねぇ・・・。
あまりにも怖くて^^;改めて文章で読んでも、その鬼気迫る虐殺シーンには寒気がしました。
このシーンが後々の横溝系本格ミステリに多大な影響を与えていることは云うまでもないことです。
何より怖いのが、このシーンが現実に起こった事件(俗に言う『津山事件』ですね)を下敷きに
しているということ。こんな怖ろしい出来事が現実に起きていたと知った時のショックは大き
かったです。現代の無差別殺人事件の発端とも云える事件なのかもしれません。

そして、映像でもう一つ印象に残っているのが八つ墓村の祟りじゃーーー!!』の名セリフ。
でも・・・原作には出て来ませんでした^^;あれは映画の脚本家オリジナルのセリフだったん
ですねぇ。びっくり・・・。

もっと全体的にホラーテイストなのかと思っていたのですが、ほぼ全篇に亘って事件の最重要
関係者であるひとりの青年の視点から語られるので、先述したように、思った程の怖さはなかった
です。この青年がなかなかの好青年であり、性格もどこかおぼっちゃんタイプで、次々怖ろしい
目に遭う割に切迫感がないせいかも。
そして、思った以上に金田一さんが活躍しません(苦笑)。ちょこちょこ出て来て事件の捜査は
しているようなのだけど、直接事件にかかわる訳でもなく、犯人を直接指摘する訳でもなく、
今回は本人自ら『こんどの事件では、ぼくにいいところは少しもなかった。』と告白
しているように、探偵としての活躍は皆無と言って良いです。犯人がわかるシーンにも居合わせ
ませんし。最後の最後で事件のからくりを補足説明するだけの役割。金田一ファンとしては
ちょっと物足りなさを感じたことは否めません。全体的に、主役の辰弥青年を主体に物語が
進められるので、金田一シリーズってことを危うく忘れかけてしまいそうでした(苦笑)。
犯人も割とあっさりわかってしまうので、緻密で豊富な伏線が魅力の横溝ミステリの中では
ちょっと拍子抜けの真相って感じがしました。犯人の動機なんかは『らしい』って感じでした
けどねぇ。犯人自体もね。

ただ、屋敷の下で繰り広げられる辰弥と典子の洞窟探検のシーンには興奮したし(洞窟フェチ)、
全体的に漂う相変わらずのおどろおどろしさやケレン味はやっぱり魅力的。八つ墓村の由来を始め、
怪しい人物が揃った多治見家の人間関係なんかも横溝ミステリらしい舞台設定で、好みど真ん中
って感じで楽しめました。

陰惨な事件の割に、ラストは大団円で読後感もなかなか良かったです。まさか、辰弥があの人物と
結ばれることになるとは・・・彼女の初対面での(辰弥の)印象なんかを考えると、こういう
展開になるとは全く思わなかったので意表を突かれました(映画とかドラマで観てる筈だけど
全然覚えてなかった^^;)。

やっぱり、正史の作品を読むのは格別の愉しさがありますね。
なんといっても、私が最も好きなおどろおどろ系本格ミステリの本家ですからね。
でも、そのおどろおどろしい作風の割に、金田一さんの登場シーンを始め、ちょこちょこ滑稽で
くすりと笑える明るい要素があるところも好きなんですよね。
うーん、面白かったぁ。堪能、堪能^^