ミステリ読書録

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恩田陸/「私の家では何も起こらない」/メディアファクトリー刊

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恩田陸さんの「私の家では何も起こらない」。

丘の上に立つ二階建ての古い家。家の横にはリンゴの木が一本。この家では時がゆっくりと流れる。
巷で幽霊屋敷と噂されるこの家に住み着いた女小説家の元に、何度もやって来る男。男は、この家
からいなくなった女の叔母のことを聞きに来るのだ。男は女にこの家の来歴を語る。この家で起きた
数々のおぞましい事件のことを。けれども、女は気にしない。たとえこの家に死者がいようとも、
生者の世界ほど恐ろしいものである筈がないからだ。女にとって憩いの場であるこの家で、何かが
起こることはない――丘の上にひっそりと建つ幽霊屋敷を巡る連作短編集。


意図した訳ではないのに、なぜかまたしても幽霊屋敷ものとなりました。恩田さんの最新刊。
最近の恩田作品にはいまひとつ『当たり』と思える作品がなく、今回も手にした時の薄さと
ぱらぱらめくってみた時の文章の少なさから、あんまり期待出来なさそうかなぁと少々斜に
構えて読んでしまったのだけれど、久々にヒットの恩田作品でした。これは良かった!
想像通り、ページ数も文章量も少ないので一時間半もあればあっさり読めてしまう作品では
ありましたが、中身はぐっと凝縮されたゴーストストーリー。出だしの一編を読んでいた時点
では、一体何が書きたいのかいまひとつわからずにいたのですが、次の二話目でガツーン!!
とやられました。この二話目の怖いこと、怖いこと。途中でなんとなくオチの予想はついて
しまったのだけれど、それを差し引いてもラストシーンの怖さは半端じゃなかった。その絵を
想像すると・・・ぎょえ~~^^;;語り手の語り口とそのラストシーンにギャップがある
だけに、怖さ倍増でした。この二話目を読んで、やっとこの作品が一話目で出て来る『幽霊屋敷』
を巡る連作形式になっていると気づいて、それからは一気に作品に入り込めました。この家に
流れるゆったりとした時間や空気とは裏腹に、その中で起きる出来事は身の毛もよだつような
いくつもの殺人事件。この家は、そうした事件で死んだ人々と共に粛々とあり続けてきた文字
通りの『幽霊屋敷』なのです。一編一編は短いですが、その家で起きた出来事の歴史が少し
づつ紐解かれて行くことによって、その『家』自体への恐怖も次第に高まって行く。一話目と
最終話で同じように『小説家の女』が出て来る(ただし、この二人は同一人物ではないと思われ
ますが)構成も非常に巧いですね。ラストの附記に関しては賛否両論のようです。確かに、
恩田さんらしい締めくくりの文章で良いのですが、正直蛇足に思わなくもなかったので、
ない方がすっきりしてはいたかも。

一作読むごとに「怖いな~」と思わされていたのですが、最終話のひとつ前『俺と彼らと彼女
たち』では、この家に棲みついている『彼ら』の姿が妙にコミカルで、この家に対する印象が
また少し変わりました。彼らのうちどの人物を取っても悲惨な最期を遂げている筈なのに、
怨霊にならないのが不思議ですが、これもこの家が居心地がいい証拠なのかもしれません。
幽霊屋敷なのに、妙に居心地のいい家。女小説家がこぞって住みたがるというのもなんとなく
頷けるような、そうでもないような(どっちだよ)。そういえば、これの前に読んでいた
三津田さんの作品も幽霊屋敷に小説家が住む話で、住んでいる間は創作活動がはかどったと
書かれていたのだっけ。幽霊屋敷に好んで住むのなんて、創作に飢えた小説家くらいなのか?^^;

この土地がどこか、という具体的な国名とかは書かれていない(たぶん?)と思うのですが、
なんとなく英国の田舎町をイメージしながら読んでました(三津田さんの小説の影響もあり?)。
全体に流れる空気も、英国風なゴシック調。紛れも無くホラーなのだけど、どこかゆったりとした
おとぎ話を読んでいるような気分で読めました。

装幀も作品とマッチしていてすごく好き。トータルで完成度の高い連作集でした。ホラー小説
として見ても、私は三津田さんよりよっぽど怖かったなぁ(じわじわ来る感じが^^;)。
久々に好みど真ん中の恩田作品が読めて嬉しいです。あっという間に読めちゃう分、読み応え
はないかもしれませんが、その分恩田さんの巧さが凝縮されていて大満足でした。恩田ファン
なら間違いなく愉しめる一作でしょう。お薦めです。