青柳さん最新作。面白い趣向の作品を次々と生み出す青柳さん。今回も、大正時代に
活躍した実在の人物を登場させ、様々な謎を解き明かすという、また違った切り口の
大正浪漫ミステリー集でした。
登場するのは、教科書に登場するような有名人ばかり。どこまで史実に忠実なのか
その辺りは想像するしかないけれど、実際、こういうエピソードがあったら面白い
かも、と思える作品ばかりでしたね。ちょっとほろっとさせてくれるものや、
心温まるものが多かったかな。実在の人物が探偵役を担ったりする分、謎解きの
難易度は低めですが、主要人物の奇矯な振る舞いや人物像の面白さが、物語の
ドラマ性を引き立てていたと思う。実在の人物がこうだったら面白いな、と思い
ながら読んでました。
短編集としても、ラストの『姉さま人形八景』で、それまでに出て来た人物が
複数再登場して、一枚の切り絵から始まる作品を壮大な物語に仕立てている手腕に
感心しました。この人があの人と繋がって~・・・と人物関係を把握するのに
ちょっと苦労しましたけどね。人物相関図が欲しいと思っちゃいました^^;
個人的には、ハチ公とその飼主の上野英三郎が出て来る『渋谷駅の共犯者』が
好きかな。スリの仕立屋銀次のキャラが良かったです。ハチ公の賢さが光る
ラストも好きでした。
あとは、遠野の舞台にした『遠野はまだ朝もやの中』も、遠野が舞台なだけに、
妖したちが活躍して、京極さんっぽい雰囲気が好みだった。柳田国男、南方熊楠に
加えて宮沢賢治まで登場しちゃいましたからね。岩手っていうのは、すごい人が
集まる土地だったんだなぁと感慨深いものがありました。
ミステリー的に一番感心したのは、芥川龍之介が出て来る表題作の『名探偵の
生まれる夜』かな。児童文学雑誌創刊を目論む鈴木三重吉が、原稿依頼をしている
芥川が執筆を渋っている為、執筆のヒントになればと最近耳にした不思議話を話して
聞かせる話。ある女性に恋をした冴えない男が、なんでも叶うという檜乙神社に願掛け
をしたところ、その男が世話をしていた亀が急死したことをきっかけに、結果として
恋が成就したという。亀の死という儚い犠牲を経て恋が成就するというエピソードが
童話に繋がるのではと三重吉は語るが、芥川はこの話に違和感を覚え、真相を
推理するという話。芥川の理路整然とした推理には感心しました。自分が世話を
していた亀を殺してまで恋を成就させようとした男のエゴにはムカムカしました
けどね。
総じて、平塚らいてうや相馬黒光、松井須磨子といった大正時代に活躍した女性は
逞しいなぁとも思わされましたね。
大正時代に名を馳せた著名人たちの鮮やかな活躍が生き生きと描かれていて、
なかなかに興味深く、勉強になる一作でした。