ミステリ読書録

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鳥飼否宇/「物の怪」/講談社ノベルス刊

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鳥飼否宇さんの「物の怪」。

鬼払いの秘祭を取材するため、植物写真家の猫田夏海は、生物の知識に精通した<観察者(ウォッ
チャー)>鳶山久志らとともに、瀬戸内に浮かぶ現代アートの島――悪餌(おえ)島を訪れた。
その夜、ご神体として“鬼の腕”が収められた神社で、神事の準備をしていた女性が宝物の刀で
惨殺される! 洞窟に潜む羅刹の正体を、生物探偵が解き明かす! 異才・鳥飼否宇の真骨頂!!
(紹介文抜粋)


<観察者>シリーズ最新作。このシリーズは、ほんと毎回出版形態を変えて出版されますね。
版元まで違うし。鳥飼さんのことだから、敢えて狙ってるんじゃないかと穿った見方をしそうに
なりますが^^;だって、単行本にソフトカバーに文庫に今度はノベルス。文庫のやつだけ未だに
見かけず読み逃してますけど^^;次は電子媒体とかで出してくるのでは・・・(苦笑)。

まぁ、前置きはそれくらいにして。やっぱりこのシリーズは面白いですね。今回は、二編の短編と
一編の中編が収録されていますが、どれも<物の怪>という言葉がキーワードとして出て来ます。
妖怪とか怪異現象を上手くミステリと絡めていて、三編とも多いに楽しめました。作風としては、
三津田信三さんと高田崇史さんを足してニで割ったような感じと云えるでしょうか。三津田さん
程ホラー色が強くなく、高田さんほど薀蓄過多でもない、けれども、そのどちらが作品に程良く
挟まれていて、しっかり本格色でも楽しませてくれるという、このシリーズの良いところが
凝縮されてる作品集と云えるのではないでしょうか。特にラストの『洞の鬼』が良かったかな。
絶海の孤島が舞台で、曰くありげな神事を行う一族が出て来て、極めつけに洞窟で殺人事件が
起きるっていう。もう、ザ・横溝!みたいな本格ガジェットてんこ盛り状態に、俄然読む
テンションが上がりました(笑)。ただ、残念なことに、犯人だけが個人的には不満かな。
こういう人物が犯人っていう真相が、私は一番好きじゃないのです。動機として説明されても、
なんだか納得が行きかねるというか・・・○○(漢字二字)の犯罪っていうのが、好きじゃないん
ですよね。人を殺したという罪の深さは一体どこへ行ってしまうのかってことになるんで。まぁ、
犯罪を行なっているシーンを思い浮かべると、非常に背筋が寒くなるものがあるんで、作品
としてはアリなんでしょうけども。オチも怖い(><)。読み終えてぞぞーっとしました。

冒頭の『眼の池』は、子供の頃に起きたある人物の不可思議な現象の謎を、話を聞いただけの
鳶山が解き明かしてしまう、安楽椅子探偵形式。奇妙な目玉の正体にはちょっと拍子抜けだった
のですが、少年が体験したいくつもの不可解な現象が論理的に解き明かされるところは感心
しました。特に、体験談を語った人物の正体にはあっと言わされちゃいました。死体の隠蔽方法
にはゲンナリしましたが・・・。

続く『天の狗』のテーマは天狗。山岳ミステリとも云えますね。犯人はわかりやすかったかな。
ただ、犯行方法はちょっと頭に思い描けないところがあって、ちょっとピンと来なかった^^;
実現可能かどうかっていう部分でもなんとなく納得がいかなかったような・・・。映像で
こうやったっていうのを見せてもらったら納得出来るのかもしれませんが。私の想像力の
問題でしょうね・・・。






女性なのに、とぼけた性格の猫田さんと、自分の興味のあるもの以外にはクールな鳶山さん、
二人のコンビが今回もいい味出してて良かったです。
でも、やっぱりこのシリーズは長編でがっつり読みたいかも。
そして、次は一体、どんな出版形態で出るんでしょうか(笑)。