ミステリ読書録

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歌野晶午/「春から夏、やがて冬」/文藝春秋刊

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歌野晶午さんの「春から夏、やがて冬」。

関東の地方都市にあるスーパーの保安責任者・平田は、ある日、店で万引きを働いた末永ますみを
捕まえた。いつもは情け容赦なく警察へ引き渡す平田だったが、免許証の生年月日を見て気が変わり、
見逃すことに。それをきっかけに交流が生まれた2人。やがて平田は己の身の上をますみに語り
始めるが、偶然か天の配剤か、2人を結ぶ運命の糸はあまりに残酷な結末へと導いていく。傑作
『葉桜の季節に君を想うということ』の著者が満を持して放つ、究極のミステリー(紹介文抜粋)。


帯の『ラスト5ページで世界が反転する!』の文字に、否が応でも期待が高まりつつ読みました。
なるほど、確かにその言葉は間違ってはいませんでした。でも、葉桜の時の衝撃に比べちゃうと、
やっぱり反転度は控えめだったかな~って感じ。予想出来ないことでもなかったですし。
最後まで読んで、すごく後味の悪さを感じました。ほんとに残酷というか、皮肉な結末としか
言い様がないです。ある人物の想いに気付くことなく、衝動のままにある行動をしてしまった
主人公のことが、悲しくて、虚しくてならなかったです。それだけ、業が深かったってこと
だろうし、人を信じることができなくなっていたせいなのでしょうけれど。それでも、もっと違う
結末もあったんじゃないかと思えて、やるせない気持ちに囚われました。




以下、ネタバレあります。未読の方はご注意を。












重い過去を抱えた平田と、彼氏からのDVに耐えるますみの交流に、何か温かいものが生まれる
のではないかという期待を持って読み進めていただけに、あの結末はショックでした。平田の性格
から、もう少し慎重に物事を処理するタイプだと思っていたので、たった一通のメールだけで、
証拠もないままにああいう決断を下すのは、何か彼の性格にそぐわないような違和感も覚えました。
それだけ、彼の犯人への恨みが積み重なってどうしようもなくなっていたという証でもあるのかも
しれませんが。
でも、彼女は娘の事故当時運転していた訳ではないのに・・・とも思ってしまいました。
確かに、運転していた人物はもうこの世にいないわけで、復讐するには生き残っている方と
考えてしまうのも仕方ないとは思うのですが。でも、平田はそういう単略思考タイプに思え
なかったので・・・。
彼女が平田を救うために考えだした嘘から、ああいう結末になってしまったことは、
本当に残念です。彼女は彼女で、平田がどれ程犯人を憎んでいるかの目算が出来ていなかった
訳で、彼女の目論見の甘さにも虚しい気持ちになりました。不幸な人は、どこまで行っても
不幸なんだなぁ・・・。彼女の彼氏の言動には本当にムカつきました。彼氏の方が天罰を
受けるべきなのにね。
すでに絶望の淵に立たされている平田に、誤解だったという真実を告げれば、彼を更なる
絶望に突き落とすことになってしまう。どちらにしても、平田は絶望という虚無を抱えて死ぬ
以外の道は残されていないのです。何とも皮肉な結末だな、と暗澹たる気持ちになりました。















読みやすいし、面白かったのですが、どこまでも救いのない結末なので読後感は最悪でした^^;
ミステリとしてはアリなんでしょうけどね。結末の苦さは歌野さんらしい作品と
云えるのかもしれません。
しかし、このタイトルはどうなんだろう・・・。もうちょっといいのなかったのかな^^;