ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

歌野晶午/「舞田ひとみ14歳、放課後ときどき探偵」/カッパノベルス刊

イメージ 1

歌野晶午さんの「舞田ひとみ14歳、放課後ときどき探偵」。

水泳部をやめて暇な毎日を過ごしていた高梨愛美璃は、共通の友人・萩原夏鈴と共に、親友の
織本凪沙に頼まれて、彼女の祖母を募金詐欺で騙した女に対する敵討ちの手伝いをすることに。
日曜日、いつもの場所で募金活動を終えた女を尾行し、トイレに入ったところを見張っている
途中に、小学6年の時の同級生だった舞田ひとみと偶然会う。ひとみは、募金活動の女と思える
人物が、姿を変えてトイレから出て来たという。怪しい女を追いかけて自宅を突き止めた四人
だったが、先客がいて敵討ちは先延ばしになった。しかし、後日その女が自宅で死体となって
発見されて――(『白+赤=シロ』)。14歳になった思春期の舞田ひとみが活躍する青春
ミステリー。シリーズ第二弾。 


前作舞田ひとみ11歳、ダンスときどき探偵では11歳だったひとみちゃんがタイトルの
通り、14歳になって帰って来ました。前作の、ゆるゆるミステリっぷりと、ひとみちゃんや
としちゃんのキャラクターや家族関係がとっても気に入っていたので、続編が出てとても嬉しい。
三年経っただけあり、ひとみちゃんは随分と成長しました。ただ、14歳という思春期真っ只中
の年齢ということで、親への反発心も強く、ゆるいだけではなく、その年齢ならではのひりひり
した毒なんかも盛り込まれているところがリアルで良かったです。
前作では叔父の歳三刑事のワトソン役的な存在だったひとみちゃんですが、本書では
立派に探偵役を勤めるまでに成長しています。前作で、11歳のひとみちゃんがどこまで
わかっているのか判断しかねるところがあったのですが、本書を読んで、やっぱりすべてが
わかっている上での言動だったのだと改めて気付かされました。身長はさほどの伸びを見せず、
小柄なままなので、外見上はあまり変わっていないのかもしれませんが(苦笑)。ちょっと
とぼけた味のある口調もそのまんま。でも、友人たちが直面する謎を論理的に解き明かす頭の
回転の速さは見事で、確実に精神的には成長を遂げていることがわかります。まぁ、三年も
経てば女の子が成長するのは当たり前なのですが^^;

残念だったのは、視点がひとみの小6の時の同級生のエミリーに変わったことで、エミリーを
取り巻く人間関係が中心となり、ひとみちゃん側の家庭環境があまり出てこなくなってしまった
ところ。としちゃんとの叔父姪関係がすごく好きだったのに、としちゃん自体の出番が少なく
なってしまって悲しかったです。舞田家ならではの家庭ルールが好きだったのにな。父親に
対する反発も確実に激しくなっていて、あの達観していたひとみちゃんにも反抗期があるんだなぁ、
と妙に感慨深い気持ちになったのでした。ただ、思春期や反抗期といった中学生の微妙な心理
としては、エミリーの内面描写の方がより深く描かれていたように思います。どちらかというと、
主役はエミリーになってしまっていて、ひとみちゃんは脇役的な扱いに近いような。一体どっちが
主役なんだい、と度々ツッコミたくなりました(苦笑)。
基本的にはゆるミスではあるのですが、前の作品の伏線が次の作品で効いて来たりすることが
多く、連作短編集としての構成がしっかり練られているところはさすが歌野さん、という感じ。
今回も、一冊通して楽しめる、ゆるくてほろ苦い青春ミステリの快作でした。


以下、各作品の感想。

『白+赤=シロ』
インドネシアの国旗を基にしたひとみちゃんのある人物の無実を証明する推理には唸らされ
ました。でも、真犯人がうやむや(一応、ひとみちゃんの仮説はあるけれど)なのは拍子抜け。
まぁ、この作品はエミリーたち三人組とひとみちゃんの出会い(エミリーは再会)編だから、
掴みはオッケーなくらいでいいのかも。

『警備員は見た!』
USBメモリー他を盗もうとした犯人は案の定。かなりオーソドックスな真相ですね。でも、
広津氏の秘密には驚きました。こちらも、ミステリ的には割とありがちな設定ではありますが。
広津氏のその後って結局どうなったんだろ。その後の作品に出てきたっけ・・・^^;

『幽霊は先生』
幽霊見たからって一気に体重が10キロ痩せちゃうってのはいくらなんでも変だって、誰もが
思うと思うんですが・・・。真相はやっぱりそんなところだったか、という感じでした^^;
それより、トンネルの怪談の方が怖くて印象に残りました。できれば、そっちの怪談の謎(女の
子と母親がどのようにして後部座席から外に出たのか)を論理的に解いて欲しかったな~。
結局○○○話だったのか・・・とちょっとガッカリ。

『電卓男』
冒頭で前作に出て来たトム先生のその後が語られます。自業自得とはいえ、厳しい現実をつきつけ
ますね。エミリーたちが無言を貫き通したのに・・・こういう皮肉な結末にしてしまうところが
歌野さんらしい。それにしても、エミリーの弟、進んでますねぇ。いまどきの小学生って、こんなに
悪知恵が働くものなの?彼とガールフレンドがやったことは子供のいたずらを超えてますね。

『誘拐ポリリズム
おいおい、弟~!この年から女ったらし・・・。あの状況で電話で暗号を伝えるとは、賢いのは
間違いないのでしょうけど。それに気づくひとみちゃんはもっと賢い。誘拐事件が一段落して
ほっとしたと思ったところに、ラストでエミリーの母親に関する意外な落とし穴。思春期の
女の子の周囲には、意地悪な罠がたくさん仕掛けられているのですね・・・。この苦さが歌野流
なんでしょう。

『母』
ひとみちゃんが大変な目に・・・^^;前作でも確かひとみちゃんの母親に関しては驚いた覚えが
あるのだけど、その存在をすっかり忘れていました。山林で発見された遺体の謎の真相には目が
点。そんな偶然って・・・^^;でも、遺体が裸足だった理由には納得が行きました。ちょっと
偶然が過ぎるような真相ですが・・・。エミリーと母親の関係は今後どうなんってしまうので
しょうか。せっかく、父親とのわだかまりがなくなって来たのにね・・・。





カバー折り返しの作者の言葉によると、次は17歳のひとみちゃんに会えるようです。まだ
エミリーたちとつるんでいるのか、それとも、自分の高校での友達とのお話が中心になるのか。
ぴちぴちの女子高生になったひとみちゃんがどんな成長を遂げているのか、楽しみに待って
いたいと思います。今度はひとみちゃんの恋愛話なんかも読みたいな。