ミステリ読書録

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「9の扉 リレー短編集」/マガジンハウス刊

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「9の扉 リレー短編集」。

出されたお題がバトン代わり!?9人の作家による豪華リレー短編集。寄稿作家:北村薫
法月綸太郎殊能将之鳥飼否宇麻耶雄嵩竹本健治貫井徳郎歌野晶午辻村深月


北村さん発起人のリレー短編集です。この寄稿作家のラインナップ見たら、手を出さずには
いられないでしょう。リレー小説といっても、「新世紀『謎』倶楽部」アレのような一本の長編を
何人かで繋げて完成させるのではなく、前の人のお題に沿えば内容は何を書いても良いという、
かなり自由なくくり。完全にオリジナルな作品を書く人もいれば、前の人の内容を受けてリンク
させて書く人もいて、バラエティに富んでいて、面白かった。ただ、リンクがあるとはいえ、
それぞれ独立した作品として単独で読めるので、9人の作家によるアンソロジーと云って差し支え
ないです。
どれもその作家の個性が出ていて基本的には面白く読めたのですが、唯一殊能さんの一遍だけは
何が書きたいのかよくわからなかったです。一応、その内容を受けた鳥飼さんが上手くフォロー
してくれた感じではありましたが。鳥飼さんのは単独で読んでもなかなか上手いと思いましたね。
秀逸なのは貫井→歌野の二作。貫井さん単独でも面白かったけど、それを受けてその続きを書いた
歌野さんの作品が両者の二作をより面白くしたと思う。そして、秀逸だったのはラストの辻村さん。
作品単独としても辻村カラーが出ていて良かったけれど、冒頭の北村さんの内容とも上手くリンク
させて、見事なラストを演出してくれたと思います。寄稿作家中最も若手ながら、貫禄の締めくくり
の一作を演出してくれて、素晴らしいアンカーだったと思います。
最後に収録されている、各作家のあとがきの収録順が作品とは逆になっているのも面白い。内容も
バトンを渡してくれた人に対するメッセージになっていて、各作家間のやりとりも楽しめました。


では、各作品の感想を。

北村薫『くしゅん』
ホラー的な展開になっていくのかと思ったら、途中でファンタジーっぽくなって面喰いました。
リレーのスタートとなる重要な作品の割に、他の作品から少し浮いてる感じがして、統一感を欠く
印象になってしまった感じがなきにしもあらず。ただ、アンカーの辻村さんが上手くラストと繋げて
くれたので、最後まで読むとこの作品が生きて来るように感じました。

法月綸太郎『まよい猫』
北村さんからのお題は『猫』。ペット探し専門の探偵というと、我孫子さんの作品を
思いだします。ラストはちょっとあっけない。入れ替わりは本当にあったのか、なかったのか・・・。

殊能将之『キラキラコウモリ』
法月さんからのお題は『コウモリ』。実は先述したように、最初読んだ時は何が書きたかった
のかよくわからなかった。でも、記事を書くにあたって再読してみたら、なんとなく見えて
きました。二人が何の仕事をしたのか、最初はわからなかったんですが・・・○○の手伝いを
したって訳ね。でも、お題を上手く消化させているとは言い難いなぁ。

鳥飼否宇『ブラックジョーク』
殊能さんからのお題は『芸人』。殊能さんの作品を受けての内容になっているけれど、
単独で巧いと思える作品でした。かなりブラックな結末ですが、ちょっとぞくりとさせる
ホラーな感じも入っていて、好みの一作。

麻耶雄嵩バッド・テイスト
鳥飼さんからのお題は『スコッチ』。これも鳥飼さんの作品を受けての内容。スコッチの
十五年と○○の十五年をかけていて、なかなか巧い。でも、なんで探偵が今になって警察を
連れて来たのかがよくわからなかったです。

竹本健治『依存のお茶会』
麻耶さんからのお題は『蜻蛉』。これもこの中の作品ではかなり浮いてる一作。蜻蛉に
拘ってるところは、頑なにお題に忠実な感じがするけれど、作品自体がどうだったかと言われる
と・・・。そもそも、主人公がお茶会に招かれた理由はなぜだったのか。そこをきちんと明らかに
して欲しかった。なんだか消化不良で終わってしまった。

貫井徳郎『帳尻』
竹本さんからのお題は『飛び石』。これは面白かった。お題の『飛び石』がきっかけで
どんどんジェットコースターのように人生が変わって行く男の話。悲惨な話なのに、どこか
コミカルな印象もあって面白い。奥田英朗さんの『最悪』を彷彿とさせる、悲惨な転落人生を
描きつつ、最後の最後で幸運が舞い込んで来て『帳尻』が合う話。

歌野晶午『母ちゃん、おれだよ、おれおれ』
貫井さんからのお題は『一千万』貫井さんの作品とセットで読んで楽しめる一作。貫井
さんの『帳尻』の主人公のその後の話になっています。彼の人生の『帳尻』はまだまだ合って
いなかったことが判明します。いやー、ブラックです。歌野さんらしい。でも、巧い。母ちゃん
すごい策略家だなぁと思っていたら・・・やっぱり、こういうからくりだったか、と思いました。
人を騙してもいいことないよってことでしょうね。

辻村深月『さくら日和』
歌野さんからのお題は『サクラ』。辻村さんらしい切ない余韻の一作。お兄さんが主人公
にたいやきをくれる理由は早々にわかってしまいましたが、ラストで判明する主人公のお母さん
の正体にはヤラレター!って感じで、辻村さんならではの仕掛けに嬉しくなりました。
北村さんもこの着地点には目を瞠ったのではないかなぁ。素晴らしいアンカーでした。


それぞれの作品に合わせて一作ごとにフォントを変えてあるところも心憎い演出。まぁ、ちょっと
読みにくいフォントもありましたが^^;
面白い趣向だったので、またこういう企画はやって欲しいですね。ただ、一作目でこれだけ豪華な
メンバー集めちゃうと、次に企画する時大変でしょうけれど^^;でも、北村さんの人柄と顔の広さが
あれば、もっと豪華なリレー短編集がいくらでも出来そうですけどね。