ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

桂望実「諦めない女」/三雲岳斗「密偵 手嶋眞十郎 幻視ロマネクス」

こんばんはー。今日は梅雨らしい天気の一日でした。じめじめじとじと、雨が降ったり
止んだり。肌寒かったし。気温の変化が激しいので、体調管理には気を付けてくださいねー。


今日も二冊ご紹介。やっと、たまってた読了本がなくなりました^^;


桂望実「諦めない女」(光文社)
桂さんの『~女』シリーズ(?笑)第三弾。今回は、娘を誘拐された
母親に、ジャーナリストの主人公飯塚桃子がインタビューするところから
始まります。母親の京子が、娘の沙恵を誘拐されたのは、沙恵が6歳の時だった。
ほんの少し目を話した隙に、娘はいなくなってしまった。それから数年が経ち、
世間はとうに娘のことなんか忘れて、身内でさえも、京子に諦めろと言うように
なったが、京子だけは沙恵の生還を信じて疑わなかった。離婚した京子はひとりで、
毎日娘の情報を求めるビラを配り、当時捜査を担当した刑事と連絡を取っていた。
諦めなかった京子の前に、ある日奇跡が訪れるが――書きおろし長編。

 

最初の出だし読んで、アレ、なんかこの間読んだ柚木さんの『BUTTER』っぽい
雰囲気だなぁと思いました。ジャーナリストの女が、手紙で取材を申し込んで、
自分にだけ取材許可が降りて、インタビューが始まる・・・みたいな流れが。
そして、最後まで読んで、内容は全く違うのに、その印象がかなり当たって
いたことがわかりました。京子に取材している場所が『あそこ』だとはね。
ラストの展開にはかなり面食らわされたなぁ。京子の狂気は、読んでいて
本当に怖かった。娘の生存を信じる強い心には、胸を打たれるところも
あったのだけど・・・。
対話形式と独白で構成されているので、かなり読みやすいです。ほぼ一日で
一気読みしちゃいました。取材対象は京子だけではなく、事件の関係者全般
に亘るので、途中で、これって誰だっけ?みたいな混乱は若干ありましたね。
登場人物が多いので。
しかし、沙恵の誘拐後の身の上には驚かされました。もちろん、こういう
犯罪組織があることは知っているけれど。島に集めるっていうのはね。
なんだか、妙にのんびりしすぎているような・・・って気もしました。
沙恵が、小学一年生で誘拐されたにしてはしっかりしているのはちょっと
意外でした。最初の誘拐事件の日の言動を読んでいたから、ちょっと
気難しいタイプの子なのかな、と思っていたので。順応力があったのかな。
その後の沙恵に対する京子の言動は、子離れ出来ていない親そのもので、
さすがに引くものがありました。離れていた時間が長い分、仕方がない
ところもあるとは思いますが・・・。
ジャーナリストの桃子自体もそうなんですが、出て来る登場人物のほとんど
が、どこかに毒を持っているというか、どこか嫌な印象を受ける人物ばかり
なので、ちょっと読んでて辟易してしまった。特に、京子がパートしていた
ペットショップの店長の言動にはイラッとしたなー。幼い子供が誘拐された
のに、その事実を自分のお店の宣伝に利用とすることしか考えてないのだ
から。呆れました。京子の義母のふみえも、息子の慎吾のことしか考えて
ない態度が嫌だった。娘を失って一番ショックを受けている京子に、よく
あんな心無い言葉が吐けるな、と腹が立ちました。とはいえ、京子自身の
言動には、一番辟易させられるところが多かったのですが・・・。特に、
沙恵の当時の同級生、香菜と再会した時の言動は・・・完全にホラーです。
怖すぎ・・・。娘を失った母親の狂気が、尋常じゃないってことが、
よくわかりました。ひー。
結局、そういう京子の娘への愛情が、最後の悲劇を生んでしまったのだろうな、
と思えました。なんとか、最悪の事態は免れて良かったです。京子の為にも、
沙恵の為にも。二人には、少し、離れる時間が必要なのかもしれない。
結局、桃子は本が書けたのかな。まぁ、書けたのだろうけど。京子を
始め、いろんな人に取材して、事件を深く知って行くうちに、桃子の
この事件に対する思いが変わって来たのは良かったです。最初は、全然
真剣味が感じられなかったですからね。きっと、出来上がった本は、
真摯にこの事件を向き合った本になっているのでしょう。
いろいろと考えさせられるお話でした。こういう犯罪は、本当に、
世の中からなくなって欲しいですね。
タイトルの『諦めない女』は、もちろん沙恵の生存を諦めなかった京子の
ことでもあるし、一緒に島で過ごした子供たちの生存を諦めない沙恵の
ことでもあるし、この事件をなんとしてでも本にするってことを諦めない
桃子のことでもあるのでしょう。『諦めたら、そこでおしまい』という、
島で沙恵に告げた愛ちゃんの言葉が最後まで胸に残りました。


三雲岳斗密偵 手嶋眞十郎 幻視ロマネクス」(双葉社
とっても久しぶりの三雲さん。ラノベ方面では活躍されているのかもしれないですが、
一般書(単行本?)での作品が全然出なくなってしまっていたので、ちょっと残念に思って
いました。久しぶりに単行本で作品が出たと知って、読むのをとても楽しみにしていました。
・・・が、うーん。ちょっとこの作品は微妙だったかなぁ・・・。

 

大正時代の帝都が舞台。内務省保安局六課に属する諜報員の手嶋眞十郎が主人公。
いわゆるスパイ小説ですね。ちょっとジョーカーゲームシリーズを思い出した
のですけど、あちらほど痛快な印象はありません。それに、全体的に話の筋がわかりにくく、
入って行きづらかったところがありました。人物関係もちょっと複雑で混乱するところが
あったし、主人公眞十郎のキャラ造形もちょっと中途半端な感じ。
他人に眞十郎の幻影が見えるって設定もなんかね。特殊能力なのか病気なのか、
よくわからない書き方だし。なんで彼がそんな能力を持っているのかってところも
説明されないままでしたし。諜報員としては、有り難い能力なんでしょうけれど。
作品自体の雰囲気は好きだったんですけどね。ストーリーにいまいち盛り上がりがない
というか、なんか、いまいち乗り切れなかったです。出だしは面白そうだと思ったん
だけどなぁ。せめて、志枝さんとの恋愛エピソードで盛り上がりでもあれば
もっと楽しめた気がするのだけど。それか、高柳芳彦との確執の部分をもっと
クローズアップさせるか。どちらも中途半端な扱いだったので、どうも
盛り上がりに欠ける印象にのなったのかも。眞十郎の諜報活動がいまいち地味だったのが
敗因とも云えるような。『ジョーカーゲーム』シリーズのような、超然とした徹底したクールさが
あれば、もっとキャラ小説としても魅力が感じられたような。キャラ読み出来る程キャラが
立ってないのが勿体なかったかな、と。
ちょっと期待していただけに、残念な読み心地だったかな。でも、三雲さんの新刊が
読めたのは嬉しかったです。もっと一般書の方で本出して欲しいなぁ。
私としては、できれば『少女ノイズ』か、『旧宮殿にて』の続編を書いて欲しいのになぁ。
って、今更無理だよなぁ・・・。