ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

葦原すなお/ミミズクとオリーブ/東京創元社刊

青春小説の名手、直木賞作家芦原すなおさんの「ミミズクとオリーブ」。

八王子に住む作家の「ぼく」には、料理上手で夫を立ててくれる優しい妻がいる。普段は控えめな彼女だが、「ぼく」の友人が持ち込んでくる奇妙な事件の話を聞いたとたん、するどい頭脳が動き出す・・・。
穏やかな空気の中、美味しい料理と奥様安楽椅子探偵の推理が堪能できる一冊。

まず「ぼく」と奥さんの関係がとてもほのぼのとしていて素敵。「ぼく」は売れない作家だけれど、それを卑下することなく、八王子の片隅でゆったりと生活している。それは売れなくても自分を立ててくれて、いつも美味しい料理を食べされてくれる妻の存在があるから。それだけで幸せなのです。そんな日常を少しだけ崩す存在なのが、「ぼく」の学生時代の友人。ことあるごとにやっかいな事件を持ち込んでは、妻が作る郷土料理をついばみつつ、その謎を解かせる。その妻がまた、普段とは違ってとてもするどい推理で謎を解いてしまうという、だいたい毎回そのパターン。謎解き自体はそんなに派手なものはないけど、おっとりとした奥さんが、ちょっとしたヒントだけで鮮やかに謎を解いてしまう様は読んでいて小気味が良いのです。
45歳の「ぼく」が、中年とは思えない程子供っぽい純粋さを忘れていないあたりも微笑ましい。

あと、いつも最後に奥さんが、庭のオリーブの木に飛んでくるミミズクにえさをやる様がとても可愛い。
野生のミミズクが本当に家に飛んで来たりするのかどうかは謎ですが・・・(八王子ならありえても不思議はないが)。

葦原さんの文章は読んでるだけで和みますね。お料理美味しそうだし。
この作品、ハードカバーは文藝春秋から出ているのですね。いかにも創元推理文庫っぽい内容なので、意外でした。でも、創元推理が目をつけたというのは妙に納得。
ちなみに続編「嫁洗い池」もお薦めです。
肩の力を抜いて、葦原ワールドに足を踏み入れてみて下さい。きっと癒される筈☆