ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

喜国雅彦・国樹由香「本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド」(講談社)

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コロナ自粛で図書館が休館になり、図書館本をすべて読みきって返してしまった

為、多分二十年以上ぶりくらいに手元に図書館の本がゼロになりました。予約本

も回って来ていたけれど、やっていないものは仕方がない。ということで、現在

自宅本棚の積ん読本を片っ端から消化していくぞ!キャンペーンを絶賛開催中。

一番始めに手をつけたのが、途中まで読んで図書館本に浮気したままになっていた

本書。読むのが勿体なくて寝かせてたというのもあるのだけど。出版された当時

(2016年11月刊行)意気揚々と購入し、始めの100ページ辺りまでは

読んでましたが、内容全然覚えてなかったので、この機会に最初から読み直し

ました。総ページ数532ページとかなり分厚いのですが、面白くって、ついつい

読み始めると止められなくなって、気がつくと腕がしびれていました^^;

漫画家の喜国さんと、奥様の由香さん(も漫画家)、仲良し夫婦ふたりによる、

古典ミステリガイドブック(+α)。いろんなコーナーがありまして、一番

多くページを割いているのが、本格ミステリの研究者・坂東善博士と女子高校生

りこちゃんが選ぶ本当に面白い海外古典ミステリのコーナー(H-1グランプリ)。

古典ミステリなど全く読んだことのない初心者のりこちゃんに、坂東善博士が

チョイスした何冊かの海外古典ミステリを読んでもらって、どれが一番面白かったか

優勝作品を決めてもらうというのが趣旨。りこちゃんはミステリ初心者の割に

意外と作品の核心をつくようなコメントをするので、評価は妥当なんじゃないかと

思いました。素人の女子高生が古典を評価するんだから、忖度なんかせず、

純粋に面白いものが選ばれているだろうからね。

坂東善博士は当然喜国さんご自身がモデルだと思うんですが、りこちゃんの

モデルは誰なのか謎。国樹さんの若い頃だったりして。超有名作品だろうが、

ばっさばっさと斬りまくって毒舌を吐くので、読んでいてとても痛快でした。

このキャラ、どっかで見覚えが・・・と思ったら、壁本作品を読んだ時の黒べるこに

そっくり・・・どうりで既視感ある訳だと思いました(笑)。ただ、出て来る

古典作品、ほとんど読んでないものばかりだったので、実際読んでいたらもっと

共感出来ただろうな~と、ちょっと残念でした。クリスティやクイーンでは何作か

既読のものもあったのですけどね。でも、これだけ毒舌のりこちゃんが絶賛する

優勝作品なら、読んでみたいかも!と思えました。優勝作を書き出そうかと

思ったんですが、全部で27回もあったので諦めました^^;これを機に古典

回帰するのもいいかなぁとも思ったり。最近海外ものって全然読んでないしね。

クリスティやカーなら実家にあるから持って来ようかしらん(図書館やってない

からさ)。りこちゃんの毒舌評価と照らし合わせて読むのも楽しそうだ。

他にもいろんなコーナーがあって、どのページにも喜国さんの本格ミステリへの

愛に溢れていて、楽しくって仕方がなかったです。一気に読むのが勿体ないから、

毎日少しづつ読むようにしようと思うんだけど、ついつい読みふけっちゃって腕が

しびれるっていう(笑)。

でも、私が一番好きだったのは、実は国樹由香さんの『本棚探偵の日常』のページ。

国樹さんが日頃の喜国さんの日常の様子を綴っているんですが、これがめっぽう

面白い。というか、もう、喜国さんへの愛に溢れている。喜国さんがどれだけ

日頃穏やかでいい旦那さんかが伺えて、めちゃくちゃ微笑ましい気持ちになりました。

ほんっとに、ここで怒らなきゃ怒るとこないよ!?ってくらいの状態になっても、

絶対怒らない。常にポジティブシンキング精神。喜国さんってすごい。それに

素直に感動する国樹さんも、とっても素敵な奥さん。二人の会話を一日中横で

聞いていたい(変態か)。でも、中盤位までの回はそんな二人の微笑ましい日常

が描かれているのですが、後半では飼い犬の死や震災後のボランティア活動の

ことなど、真面目な内容も多くなって行きます。そこでも、お二人の真面目で

真摯な一面が伺えて、好印象ではありましたが。お二人とも犬が大好きで、

飼い犬への愛が半端ない。それだけに、愛犬の死の様子が描かれる回は読むのが

辛かったです。一匹が亡くなると、その喪失に耐えきれず、また新たな保護犬を

迎え入れて、常にお二人の家には二匹の犬がいる状態が保たれているようです。

お二人とも、本当に犬が大好きなのですね。

読み終わるのがほんと悲しかったな。もっともっと読んでいたかったです。

本棚探偵シリーズ、やっぱり全部手元に欲しいよ~。単行本版はほとんど絶版に

なっていて、文庫でも手に入りにくいみたいですけど。できれば単行本版で

揃えたいんだけどな(なんせ、装丁が神なんですから)。

これから本格ミステリを読もうという人にとっては、最高の指南書じゃないで

しょうかね。

終盤で本書の前に出た『本棚探偵最後の挨拶』で、日本推理作家協会賞の評論その他

部門にノミネートされ、見事に受賞された旨が出て来るのですが、本書自体でも

第17回本格ミステリ大賞評論・研究部門を受賞されたらしいです。うむうむ。

納得です。

できれば、今度は日本の古典ミステリでH-1グランプリをお願いしますっ。

 

 

 

竹本健治「狐火の辻」(角川書店)

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天才囲碁棋士・牧場智久シリーズというので、借りてみました。竹本さんといえば、

ちょっと前に出した『涙香迷宮』で再評価され、話題になりましたね。ミステリ

大賞なんかも獲りましたし。ただ、あの作品のような重厚さを期待して本書を

読むと、かなり食い足りなさを感じるかもしれません。さらに、私のように

牧場シリーズだと思って手に取った人間は、牧場君の登場シーンのあまりの

少なさにがっかりしてしまうこと必至。ただ、『涙香迷宮』で読みにくさに

挫折した方だったら、こんな軽めの作品も書けるんだ、というプラスの評価に

転化する可能性はありそう。一見何の脈絡も関係もなさそうな、いくつかの

怪談話や都市伝説が、最後にきっちり一つにつながって行くところはさすがだと

思いましたしね。

でも、前半の展開がだらだらしているので、途中ちょっと中だるみする感じは

否めない。牧場シリーズと銘打っている割に、牧場君は対局の準備で忙しくて

ほとんど出て来ないので、牧場君の見せ場もないし。あくまでメインで捜査

するのは小田原署交通課の楢津木に、同僚の岩淵と北条(薫子)の三人。

居酒屋で飲み食いしながら捜査情報をやり取りするので、居酒屋探偵団と

名付けて捜査して行くところは面白かったけど。牧場君は、楢津木の顔馴染み

だった為、アドバイザー役として登場。楢津木は、牧場君のちょっとした

アドバイスをすべて鵜呑みにして、その通りに捜査を進めて行くので、相当

牧場君に心酔している感じがしました。まぁ、結果すべてが上手く行く訳

なので、やっぱり牧場君さすが!みたいな感じにはなるんですけど(苦笑)。

電話で話を聞いただけでほとんどすべてを見通してしまう牧場君は、やっぱり

天才だと思いました。ほんとに18歳か・・・。牧場君の出番がほぼないので、

当然ながらガールフレンドの類子ちゃんも出て来ないのが残念だった。美少女

剣士と美少年棋士という、見目麗しいお似合いのカップルなので、出て来ると

絵面も華やかになるのにねぇ。

前半のホラーテイストが、後半一気にミステリに変化して行くところは良かった

です。でも、やっぱり『涙香~』と比べちゃうと、ちょっと読み応えがなかった

かな。

 

ブログ14周年 ありがとうございます。

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どうもどうも、こんばんは。緊急事態宣言で日本全国が自粛の中、みなさま

いかがお過ごしでしょうか。私は、GW中というのに、今年はどこへも出かけられず、

家に閉じこもる日々です。先週後半は、まる四日間、家の敷地から外に出ません

でした。さすがに運動不足になって体重が増えて来たので、昨日は久しぶりに天気も

良かったこともあり、人の少ない道を選んで散歩に行って来ました。たまには歩か

ないと、足腰がどんどん弱くなりそうで。住宅街には人影がほとんどなかったの

ですが、多摩川沿いのサイクリングロードには人がたくさんいました。散歩、

ジョギング、自転車と、用途はいろいろでしたが。バーベキュー禁止の筈の場所

にも、なぜかテントを張った家族がちらほら。バーベキューをやっていたかは遠く

からではよくわかりませんでしたけど。三密は避けているからってことなんで

しょうね。

こういうのは、どこまで許容範囲なのか、最近よくわからなくなりつつあります。

何やっても、叩く人は叩くし。コロナも怖いけど、人の目も怖い。

一番いいのはとにかく家にいることなんでしょうけど・・・。

私の住む市は、都市部からは離れているものの、比較的感染者が多く出ていて、

普通に出歩くのも本当はすごく怖いです。スーパー行くのも命がけ。いつに

なったらこんな生活が終わりになるんでしょう。先が見えなくて、気が遠く

なります・・・。

一番困るのは、図書館が閉館中ということです。GW終了までかと思いきや、

本日の緊急事態宣言延長の前に、早々に6月始めまでの閉館延長を宣言

されてしまってました。予約本受け取りさえ出来ない状況が辛いです。

予約したい本もたくさんあるのに(涙)。でも、今日の安倍首相の宣言の

中に、美術館や博物館、図書館等は徐々に再開させる、とうものも含まれて

いたので、開館を早めてくれるのではないかとちょっと期待。うちの市の

感染者状況を鑑みると、なかなか難しそうな気もしなくもないけれど・・・。

 

まぁ、それはさておき。こほん。

そんな世の中が暗い時にワタクシゴトで何なのですが、本日拙ブログは

14周年を迎えることとなりました。

いや、はてなブログではまだまだ一周年にも満たないひよっこではあるの

ですけれど^^;一応、ブログを始めた日ということで、記念日も

ヤフーブログからの引き継ぎでいいかな、と。

はてなのスタート日って、自分の中でもいまいちはっきりしてないしね(

ブログ作った日と記事書いた日と公開した日が全部違うので^^;)。

はてなブログに移ってから、少し記事の書き方も変えたりして、未だに

試行錯誤な感じはあるのですが、大分こちらでの操作にも慣れて愛着が湧いて

来たところです。自粛自粛でやることもなく、他人とも会えない今、ブログの

存在が救いとなっています。ネット上なら密にならずに他人とやり取りも

できるのだもの。続けてて良かったなと心から思います。

ヤフーでやり取りして下さっていた大部分の人とは付き合いがなくなって

しまったけれど、それでも懲りずに付き合ってくださる方もいて、本当に

ありがたいです。こちらに移ってから仲良くさせて頂けるようになった方も

いらっしゃいますし。なんとなく目に止まって、読者になるボタンを押して

下さるかたもいますし、記事を読んで、なんとなくいいなボタンを押して下さる

方もいる。全部が嬉しいです。ありがとうございます。

とりあえずこんな世の中ですが、続けることを目標に、今後ものんびりと記事を

更新して行きたいなと思っております。

15周年目も、どうぞよろしくお願いいたします。

早く、当たり前な日常に戻ることを祈って。

 

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今年も相方がケーキを買ってお祝いしてくれました。ありがとう!

自粛中でも、ケーキ屋さんはかなり混み合っていたそうです。

GWなのにどこにも行けず、家で自粛している子供たちの為にと買って行く人

が多いのかもしれませんね。

こんな時でも、感染症対策をしてお店を開けて下さることに、

感謝の気持ちでいっぱいです。

美味しいケーキをありがとうございます。

ちなみに、冒頭の写真は庭に咲いた芍薬+小手毬。薔薇はまだ全然

咲いてないので写真が撮れませんでした・・・。

 

 

 

浦賀和宏「デルタの悲劇」(角川文庫)

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本当に、とてもとても久しぶりの浦賀作品。お友達ブロガーのゆきあやさんの

記事で、あの八木剛士が出て来ると知ったから、興味を惹かれて即予約しました。

 

久しぶりに浦賀作品を読もうと意気揚々と予約していた矢先の浦賀さん訃報の

ニュースには、本当にショックを受けました。だって、まだまだお若い筈。

そりゃ、最近めっきり読まなくなっていたけど・・・でも、やっぱり好きな

作家さんのひとりだったので。最近は文庫で次々と新刊を出されていて、精力的

に書かれているなぁと思っていたところだったのに。

そんな精神状態で読み始めた為、冒頭の八木の母親の手紙の文言が、あまりに

現実に即していて、一瞬息が止まりました。八木が浦賀和宏というペンネームで

小説を書いていて、来月出る『デルタの悲劇』が遺作になる、というのですから。

もちろん、本書が出た当時は浦賀さんはまだご存命だった筈です(急逝のニュース

は今年の三月)。ご本人は、本当にこれが遺作になるなんて思いもしなかった筈。

何か予言のような作品に思えてショックでした。まさか、ご自分の死期を知った上で、

本当に遺作のつもりで書かれたのでは・・・と勘繰ってしまった(重病か自○とか

・・・)。でも、調べてみたところ、死因は脳出血とのこと。亡くなる三日前に

普通にツイートもしてらっしゃったそうで、本当に急逝だったようです。ご本人

だって、自分が死ぬなんて思いもしていなかった筈です。きっと、まだまだ

書きたい作品もあったことでしょう。

まだ41歳だったそう。若過ぎます。悲しいです・・・。

書き溜めた作品がこれから出版化される可能性もありますが、ご本人が生きてる

間に出版された作品は本書が最後ということで、本書が遺作と言ってもいいのでは

ないかと思います。

最後の作品となった本書は、浦賀さんのトリッキーな一面がたくさん詰まった

作品です。正直、最後の作品解説の部分を読むまで、頭が混乱していて、きちんと

理解しきってはいなかったので、作品の一部として収録されたこの作品解説に

かなり助けられました。更に、最後に出て来た母親の手紙で明らかになる真実

にも驚かされました。ストーリー自体は単調で、いまいち面白味に欠けるなぁ

という感じだったのですが、終盤のトリックが明かされる部分で、一気に

その単調な部分も含めてすべてが浦賀さんの仕掛けの一部であったことが

わかり溜飲を下げました。八木を含め、登場人物には全く好感持てる人物が

いませんでしたが・・・。

残念だったのは、八木剛士が出ると知って楽しみにしていたのに、純菜シリーズ

の八木とは全然別の人物だったところ。名前も剛士じゃなくて剛だし^^;

いやまぁ、純菜シリーズの八木がそんなに好きだった訳でもないけどさ。

しかし、浦賀さんの本名が本当に八木剛だったとは・・・。訃報のニュース

見た時に、ウィキペディアで調べたら、本名八木剛って書いてあって目が点に

なりましたもん。

これが最後の作品とは、本当に残念です。まぁ、純菜シリーズもまだ残ったまま

だし(ゆきあやさん、ごめんよぅ・・・!!!(><))、読み逃し作品もたくさん

あるから、これから少しづつ読んでいけたらいいなと思う。

ご冥福をお祈りいたします。

 

 

キタハラ「熊本くんの本棚 ゲイ彼と私とカレーライス」(KADOKAWA)

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全く何の予備知識もなく、タイトルに惹かれて借りてみた作品。タイトルに

本棚って入ってるってことは、本に関係するお話かなぁと思って。副題の

ゲイ彼ってとこにちょっと引っかかったのですけど^^;ただ、この副題、

カレーライスはそんなに必要だったかなぁという気はする。確かに主人公が

カレーライスをぐちゃぐちゃにして食べるシーンが印象的ではあるけれども

・・・。作品の中でそれほど重要な要素でもないと思うんだけどなぁ。

思った以上にかなりヘビーな作品でしたね。想像していた作品とはかなりかけ離れて

いて、途中かなり戸惑いながら読んでました。主人公のみのりと、大学の友人

熊本くんの友情がメインかと思いきや、みのりと熊本くんは割合最初の方で

みのりのある行動が原因で仲違いしてしまい、その後は大部分が熊本くんが

書いた小説(ほぼ私小説?)で構成されています。その中では、みのりの

亡くなった親友と熊本くんとの人知れぬ関係や、熊本くんの生い立ち、彼の

性癖が見え始める経緯なんかも描かれています。どこまでが真実の出来事なのかは

よくわかりませんが、まぁ、ほぼ本人の体験談なんじゃないかと推測。

熊本くんもみのりも、みのりの親友まつりも、みんないまひとつ掴みどころの

ない性格で、何考えてるのかあんまりよくわからなかった。誰ひとり共感出来る

人物はいなかったですね。何か、得体の知れない人たちの物語って感じだった。

そして、終盤の熊本くんに起きる奇禍は衝撃的でした。彼の生い立ちから、

物静かな彼の中でも、いろんなどす黒いものが渦巻いているんだろうなぁとは

思っていたけれど・・・父親の言動には、ただただ嫌悪感しか覚えなかったです。

せめて、みのりと熊本くんの友情が続いていたら、もうちょっと読後感も変わって

いたような気がするんですけどねぇ。ラストの、みのりの部屋での、熊本くんの

本に関するエピソードは余韻が残ってよかったと思うんだけど・・・でも、

個人的に好きな作品かどうか聞かれたら、好みではないと答えるだろうな。

熊本くんのゲイ描写がどうとかって問題ではなく。何か、全体的に、掴みどころの

ないお話で、評価が難しいというか。登場人物間の会話が、禅問答でも読んで

いるかのように理解し難かったり。こういう、行間を読むタイプの作品が評価

されるのもわからなくはないんだけど、ここまで登場人物たちの闇が根深いと、

正直読むのがしんどい。鬱屈した気持ちになってしまった。

特に、コロナで鬱々としている今読むべき作品じゃなかったなと思う。ちょっと、

読んだ時期が悪かったかも。

町田そのこ「うつくしが丘の不幸の家」(東京創元社)

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はじめましての作家さん。図書館新刊情報でタイトル見て、面白そうだったので

借りてみました。東京創元社(ミステリ本では絶大な信頼を置いている版元)

だしね。

読んでみて、少し前に読んだ綾瀬まるさんの『さいはての家』とかなり設定が

似ていて、びっくりしました。どちらが先に出版されたのかわからないけど、

あとから読んだ方はどうしても二番煎じの印象を受けてしまうなぁ。まぁ、

細かい部分は全然違うのだけれど。ひとつの一軒家を巡る5つの家族の物語で、

同じ一軒家に、いろんな家族が住んでは出て行くって設定は全く同じ。

もちろん、それぞれの物語は全く違ってるんですけどね。タイトルから、もっと

不穏な話を想像していたのだけれど、どのお話も読後は温かい気持ちになれるもの

ばかりでした。読む前は、この家に住む家族はみんな不幸になる、とかそういう

ブラックよりの話かと思って身構えてたんですけどね。確かに、この家に住む

住民たちはみんな、いろんな鬱屈や葛藤など、何かしらの問題を抱えている人

ばかりではあるのですが、この家を通して家族の在り方を見直し、再出発して

行くので、どれも読後はそれなりに爽やかです。

『さいはて~』ともう一つ似ているところは、作品の構成。時系列が現在から

過去に遡る形で収録されているところです(『さいはて~』はもう少し順不同

だったかもですが)。一話目の美保理が一番最後に住んだ住人(おそらくその後も

住み続けるのではと思われる)。一番古い(つまり新築で住んだ)のが五話目の真尋。その後が四話目の忠清と蝶子。その後が三話目の叶絵と紫と響子で、その後が

二話目の多賀子。つまり、住んだ順番で行くと、真尋(五話)→忠清(四話)→

叶絵(三話)→多賀子(二話)→美保理(一話)で現在に至る。要するに一話目の

後から順番に過去に遡って行くわけですね。んで、最後にまた一話目の主人公

美保理が出て来る、という構成。それぞれのお話は独立しているのだけど、同じ家

が出て来るのだから、ちょこちょこ繋がっている要素が出て来る。庭の枇杷の木が

中でも最重要ポイント。一話目ではたくさんの実をつける立派な樹に育っていますが、時系列が遡るごとに木は若返って行き、五話目では苗木の状態で登場。そして、

なぜこの木が植えられることになったのか、その理由がわかります。これはちょっと

感慨深いものがありましたね。毎回出て来るこの枇杷の木には、こういう思いが

込められていたのか、と。

しかし、築25年の間に、五回も居住者が変わる分譲住宅って、なかなかないんじゃ

ないかしら。普通、そんな簡単に買い手がつかないと思うけどなぁ。まぁ、叶絵たちは

蝶子から一年間限定で貸し出されただけなので、正確には持ち主は四人変わってる

という方が正しいのですけども。それにしたって多いですよね。普通は、せいぜい

二回くらいで建て直しとかになると思うけど。

そういう意味では、あくまで賃貸物件だった『さいはて~』の方がまだ設定の

リアリティはあるかも。ただ、それだけ持ち主が変わったからこそ、『住むと

不幸になる家』みたいな噂が立ってしまったとも云えるのでしょうけど。

一話目の美保理は、そんな噂のせいでいろいろと鬱屈を抱える羽目にもなるの

ですが、最終的には、彼女たちがこの家の最後の住人となるのでしょうね。

この家も、やっと終の棲家にしてくれる住人が来てくれてほっとしたのじゃ

ないのかな。

裏庭に植えてある枇杷の木が、物語のいいアクセントになってますね。枇杷の木、

私の実家にも植えてあって、毎年実をつけてくれていたのですが、あまりにも

大きくなってしまって手に余ったらしく、数年前、母親が結局切ってしまった

らしい。実は小さいけど、甘くて美味しかったので、その話を聞いた時はちょっと

ショックだった。葉っぱにあんなにいろいろ用途があるなんて知らなかったなぁ。

その枇杷の葉っぱの使い方を教えてくれた、隣家に住む信子さんのキャラクターも

良かったですね。一話目の最後でいきなり引っ越してしまって悲しかったけど、

その後の話で彼女自身の過去のことも描かれて、なぜ彼女が越して行ったのか、

その経緯も伺い知れてよかったです。きちんと計算された物語構成になって

いるなぁと感心しました。その辺りも、綾瀬さんの作品と共通しているところ

ですね。

エピローグの、あの二人の再会がとても良かったですね。これからまた新たな

友情関係が続いて行けばいいなと思います。枇杷が繋いだ友情(笑)。

そして、この町田さんも、綾瀬さんや千早(茜)さんと同じ『女による女のための

R-18文学賞出身だそう。この賞出身の作家は、ほんとにハズレがないな。

他の作品も読んでみたくなりました。

 

 

山本弘「君の知らない方程式 BISビブリオバトル部」(東京創元社)

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シリーズ第四弾。今回は、空の恋愛がメイン。あのSF小説バカの空が恋愛!!

しかも、なぜか突然三角関係!!!前作から、ちょっと武人に対して気持ちが

動いているのかも?って予感はしていたから、彼との恋愛がメインだったら

もっとワクワクして読めたと思うんですが、思わぬ伏兵が出て来て、全く

予想外の展開になって目が点状態。思うんですけど、山本さんって、恋愛小説

書くのは全く向いてないんじゃないかしら。男女の恋愛感情の機微の部分、

まったく私には共感出来なかった。まぁ、このシリーズの登場人物が特殊な

性格しているせいなのかもしれないですけど、それにしても、空を始め、

彼女を巡る二人の男性それぞれに関しても、恋愛に関してはツッコミ所満載。

そうじゃないだろ!って何度ツッコミ入れたくなったことか・・・!!

当の空本人そっちのけで、男性二人でどちらが空と付き合うか決着をつけようと

するところもおかしいし、それをビブリオバトルで競うってのも変だし。

いやいや、恋愛ってそうじゃないでしょ、と叫びたくなりました。みんな、

自分のことしか考えてないじゃん。でも、一番がっかりしたのは、空自身が

出した答えですよ・・・!!何、ソレ。人のことバカにしてんの!?って

言いたくなりました。でも、男性陣は彼女の答えに納得してて。それにまた

ガックリ。どこまでもズレた人たちだなぁ。これ、少女マンガだったら、ほんと

編集部にものすごい苦情が殺到するんじゃないかしら。こんな結末だったら、

空の恋愛なんか書かない方が良かった気がするよ・・・。彼女の辛い過去の

部分をもっと掘り下げるとかさ。いじめっ子が空のバイト先に来るくだりの

顛末にはスカッとしたのになぁ。あの武人の行動で、普通に彼に心を動かされる

って展開にするとかだったら、全然印象が変わってたと思うのに。なんかもう、

いろいろとがっかりな展開だった。こういう意表をつく展開にすること自体が、

SF作家らしいんだろうか。だとしたら、やっぱり私にはSFって合わないや。

ビブリオバトルの部分は相変わらず楽しめたんですけどね。

続きは気になるところですし、作者ご自身ももう第5弾の構想があったそう

なのですが、悲しいことに、作者の山本さんは少し前に脳梗塞を患われて、

今は闘病中とのこと。回復には向かわれているそうですが、ご本人が、もう

作家活動が出来るかわからないようなことをおっしゃっていたらしい・・・

奇跡が起きて欲しいと願わずにはいられません。

シリーズを、もやもやしたこの作品で終わりにしてほしくないです。

第5弾が出ると信じたいです。