はじめましての作家さん。図書館新刊情報でタイトル見て、面白そうだったので
借りてみました。東京創元社(ミステリ本では絶大な信頼を置いている版元)
だしね。
読んでみて、少し前に読んだ綾瀬まるさんの『さいはての家』とかなり設定が
似ていて、びっくりしました。どちらが先に出版されたのかわからないけど、
あとから読んだ方はどうしても二番煎じの印象を受けてしまうなぁ。まぁ、
細かい部分は全然違うのだけれど。ひとつの一軒家を巡る5つの家族の物語で、
同じ一軒家に、いろんな家族が住んでは出て行くって設定は全く同じ。
もちろん、それぞれの物語は全く違ってるんですけどね。タイトルから、もっと
不穏な話を想像していたのだけれど、どのお話も読後は温かい気持ちになれるもの
ばかりでした。読む前は、この家に住む家族はみんな不幸になる、とかそういう
ブラックよりの話かと思って身構えてたんですけどね。確かに、この家に住む
住民たちはみんな、いろんな鬱屈や葛藤など、何かしらの問題を抱えている人
ばかりではあるのですが、この家を通して家族の在り方を見直し、再出発して
行くので、どれも読後はそれなりに爽やかです。
『さいはて~』ともう一つ似ているところは、作品の構成。時系列が現在から
過去に遡る形で収録されているところです(『さいはて~』はもう少し順不同
だったかもですが)。一話目の美保理が一番最後に住んだ住人(おそらくその後も
住み続けるのではと思われる)。一番古い(つまり新築で住んだ)のが五話目の真尋。その後が四話目の忠清と蝶子。その後が三話目の叶絵と紫と響子で、その後が
二話目の多賀子。つまり、住んだ順番で行くと、真尋(五話)→忠清(四話)→
叶絵(三話)→多賀子(二話)→美保理(一話)で現在に至る。要するに一話目の
後から順番に過去に遡って行くわけですね。んで、最後にまた一話目の主人公
美保理が出て来る、という構成。それぞれのお話は独立しているのだけど、同じ家
が出て来るのだから、ちょこちょこ繋がっている要素が出て来る。庭の枇杷の木が
中でも最重要ポイント。一話目ではたくさんの実をつける立派な樹に育っていますが、時系列が遡るごとに木は若返って行き、五話目では苗木の状態で登場。そして、
なぜこの木が植えられることになったのか、その理由がわかります。これはちょっと
感慨深いものがありましたね。毎回出て来るこの枇杷の木には、こういう思いが
込められていたのか、と。
しかし、築25年の間に、五回も居住者が変わる分譲住宅って、なかなかないんじゃ
ないかしら。普通、そんな簡単に買い手がつかないと思うけどなぁ。まぁ、叶絵たちは
蝶子から一年間限定で貸し出されただけなので、正確には持ち主は四人変わってる
という方が正しいのですけども。それにしたって多いですよね。普通は、せいぜい
二回くらいで建て直しとかになると思うけど。
そういう意味では、あくまで賃貸物件だった『さいはて~』の方がまだ設定の
リアリティはあるかも。ただ、それだけ持ち主が変わったからこそ、『住むと
不幸になる家』みたいな噂が立ってしまったとも云えるのでしょうけど。
一話目の美保理は、そんな噂のせいでいろいろと鬱屈を抱える羽目にもなるの
ですが、最終的には、彼女たちがこの家の最後の住人となるのでしょうね。
この家も、やっと終の棲家にしてくれる住人が来てくれてほっとしたのじゃ
ないのかな。
裏庭に植えてある枇杷の木が、物語のいいアクセントになってますね。枇杷の木、
私の実家にも植えてあって、毎年実をつけてくれていたのですが、あまりにも
大きくなってしまって手に余ったらしく、数年前、母親が結局切ってしまった
らしい。実は小さいけど、甘くて美味しかったので、その話を聞いた時はちょっと
ショックだった。葉っぱにあんなにいろいろ用途があるなんて知らなかったなぁ。
その枇杷の葉っぱの使い方を教えてくれた、隣家に住む信子さんのキャラクターも
良かったですね。一話目の最後でいきなり引っ越してしまって悲しかったけど、
その後の話で彼女自身の過去のことも描かれて、なぜ彼女が越して行ったのか、
その経緯も伺い知れてよかったです。きちんと計算された物語構成になって
いるなぁと感心しました。その辺りも、綾瀬さんの作品と共通しているところ
ですね。
エピローグの、あの二人の再会がとても良かったですね。これからまた新たな
友情関係が続いて行けばいいなと思います。枇杷が繋いだ友情(笑)。
そして、この町田さんも、綾瀬さんや千早(茜)さんと同じ『女による女のための
R-18文学賞』出身だそう。この賞出身の作家は、ほんとにハズレがないな。
他の作品も読んでみたくなりました。