ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

若竹七海/「スクランブル」/集英社刊

女流ミステリ界の実力派、若竹七海さんの「スクランブル」。

1980年1月のある午後。私立新国女子学院のシャワールームで女性の他殺死体が発見された。
高等部編入組の為<アウター>と呼ばれ、中等部持ち上がり組から目の敵にされている文芸部の
夏見たち6人は、それぞれの観点からこの事件の考察を試みる。15年後の1月、部員の一人の
結婚披露宴に出席したその他5人は、それぞれ当時の事件に思いを馳せる。そして、15年経ったその日、事件の謎がついに明らかにされる。高砂の上で微笑むその人物こそ、この事件の真犯人だった。

久しぶりの若竹作品、とにかく面白かった。若竹流の毒が作品全体に溢れ出していて、そこかしこに
人間の悪意が見え隠れしている。高校生が主人公ですが、青臭い青春群像ものとは隔絶している感
がありました。
それは一重に、文芸部部員たちの非常に老成したようなキャラクター故にだろうと思います。
<アウター>と呼ばれ、常に周りからつまはじきにされても自分たちの立場を分かっているし、
決して卑下したりしない。時には憤り、泣いたりもするけれど、それでも折れることなく、
自分を貫き通すような強かさを持っています。そうは言ってもやっぱり17歳。きらきらと輝く
ような未来と将来への不安が入り乱れ、挿入される現実の(15年後の)自分との対比も鮮やか。

文芸部員同士、それぞれ頭が良いので認めあってる所もあるし、反発するところもある。
その辺の6人の関係がとてもいいな、と思いました。対して、彼女たちに対抗する持ち上がり組は、
非常に幼稚っぽい人物像に描かれていますね。学院において異質な存在を排除しようとして、
考えられないような悪意をぶつけてくる。少女ならではの、無邪気な悪。ここら辺を書かせたら、
ほんとに若竹さんは上手い。

作品としては、若竹さんらしく、とても構成が上手いですね。ラストの仕掛けも見事。
それぞれの視点から書かれた章のタイトルが、卵料理というのも洒落ています。
一つの食材でもいろんな料理法があって、バラエティー豊かに演出できる。それぞれの少女も、
同じ人間でも考え方はそれぞれといった所でしょうか。

それにしても、これだけの実力のある作品を数々世に送り出している若竹さん。
ミステリファンからの絶大な人気も誇っている筈なのに、何故新作が出ないのでしょう?
ここ数年は長年の沈黙を破る作家が多いので、若竹さんもここらで腰を上げてもらいたいものです。