ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

東川篤哉「君に読ませたいミステリがあるんだ」(実業之日本社)

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東川さん最新刊。鯉ヶ窪学園が舞台ですが、既存のシリーズの登場人物はほぼ

出て来ません(一部重複しているキャラも出てたみたいですが、私は全然気づかな

かった・・・^^;;)。

 

入学したての春、間違えてうっかり部員ひとりの弱小文芸部に迷い込んでしまった

主人公の『僕』は、唯一の部員で部長の水咲アンナから、彼女が書いたミステリ

小説を読まされる。ツッコミ所満載の小説のため、僕は感想を聞かれて、素直に

その旨を述べた。すると、その後も数ヶ月ごとに同じシリーズのミステリ小説を

読まされる羽目になり――。

ヒロインが書いた瑕疵だらけのミステリ小説を、主人公が読んでツッコむという、

ちょっと面白い設定の作品集。確かに、ヒロインのアンナが書いた小説にはいちいち

ツッコミたくなる要素がたくさんあって、そういう読者の疑問を主人公の『僕』が

きちんと指摘してくれるので、溜飲が下がるところはありました。なぜか、

アンナはこのシリーズ小説を、主人公に数ヶ月の間を置いて一作づつ、トータル

一年かけてじっくり5作読ませて行く。出会った時には、すでにすべてを書き

終えていたらしいにも関わらず。なぜ彼女は一気に5作を読ませずに、一年もかけて

彼にシリーズを読破させたのか。そこがこのシリーズ最大のキモになっている訳

なのですが・・・この理由を知った時、主人公と同じくらい、ぶっ飛びましたよ。

え、えぇぇぇーーーー!???っていうか、いつから?どこを?どうして??と

ハテナの連続。だって、本当にこれが理由だとしたら、一作目を読ませた時点で

そうじゃなければ、彼女の思惑は成立しませんよね?ということは、主人公が

第二文芸部でアンナと初めて顔を合わせた時に、そうなったということ?でも、

あの出会いでそういう要素は全く感じられなかったように思うんですが・・・。

それとも、書かれていない前日譚がこれから書かれるとでもいうのだろうか・・・

(実はアンナは前から主人公と出会っていたとか)。しかも、それを知った主人公

の態度がまたひどい。いくら何でも、こんな反応はないよね・・・。私がアンナの

立場だったらショックで立ち直れないよ。まぁ、確かに、伝え方はもっと違う方法が

いくらでもあったとは思うけどさー。

ミステリの仕掛けとしては面白かったけど、ちょっと全体的に腑に落ちなさは残り

ました。アンナと『僕』の、アンナの創作小説をめぐる掛け合いは面白かった

ですけどね。少しづつ、『僕』がツッコミ所満載のアンナのミステリ小説の虜に

なりつつあるところが微笑ましかっただけに、あのラストはちょっと残念だった。

もうちょっと違う着地点もあったと思うんだけどなぁ。その容赦ないところが

東川さんらしいとも云えるのかな。

まぁ、なんだかんだで面白く読んだからいいや。東川作品には著しく甘い私なの

でした。多分、普通のミステリ好きが読んだら本投げるかもしれないな^^;

はは。