ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

竹本健治/「狂い咲く薔薇を君に 牧場智久の雑役」/光文社カッパノベルス刊

竹本健治さんの「狂い咲く薔薇を君に 牧場智久の雑役」。

明峰寺学園高校一年の津島海人は、ある日所属の化学部でビデオのチェックをしていると、
突然テレビの画面が切り変わり、同じ一年の春山成美の姿が。切羽詰まった様子の彼女は
あろうことか、その場に憧れの先輩・武藤類子がいるにも関わらず、海人に向けたメッセージ
を語り出した。海人には見に覚えのない内容だったが、問いただそうにも、その直後彼女は
その放送スタジオの中で死体となってしまった。現場は密室。周囲の誤解を解く為にも、
海人は事件解決に乗りだすのだが、謎は深まるばかり。そんな時海人の前に現れたのは、
憧れの類子先輩と少なからぬ繋がりがありそうな牧場智久と名乗る人物。海人はにっくき
恋敵・牧場よりも早く事件の真相を掴むことが出来るのか!?

牧場君お帰り~~~~!!と意気込んで読み始めたら、あれま、主役が違う。新シリーズ
という位置づけなのでしょうね。新しい登場人物・海人君もなかなかに可愛い少年では
ありますが、やっぱり牧場君のかっこよさには負けちゃいますね~。類子ちゃんも相変わらず
の美少女ぶりで。前のシリーズよりも軽快なタッチで、痛快学園ミステリというテイスト。
ただ、この学園、こんなに生徒が次々死んで大丈夫か!?というような金田一少年ノリで、
しかも、人が死んでいるのに、生徒たちはいまひとつ深刻さが足りず、緊迫感がない。
その辺りのリアリティには問題ありという感じもしました。どちらかというと、ライトノベル
風を狙ってのことでしょうか。可愛らしいイラストも挿入されているし。
肝心の作品に関しては、冒頭の「騒がしい密室」が一番良かったかな。表題作は動機に難あり
だし、ラストの「遅れて来た屍体」に関しては、謎解き部分がかなり苦しい。だいたい、
キャトル・ミューティレーションの謎の説明はどうしました?かなり消化不良のまま終わって
しまった・・・。

それでも、また牧場君に会えたのは嬉しいことです。どちらかというと、主役は語り手の
海人君なので、副題は私も「津島海人の受難」の方が合ってる気はしますが(苦笑)。
ただ、あとがきを読む限り、今後もこのシリーズが刊行されるかはかなり微妙。是非とも
今後も続けて頂きたいところなのですが。

それにしても、「刻Y卵」をお書きになった東海洋士氏がお亡くなりになっているとは
知りませんでした。いや、実は読んでないのですが。何度も読もうか迷った作家では
あったので、残念です。今更ですが、ご冥福をお祈り致します。