ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

道尾秀介「カエルの小指 a murder of crows」(講談社)

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ミッチー最新刊は、カラスの親指の続編。なんか、タイトルの付け方が

似ていたから、もしや、とは思っていたのですが、実際そうだとわかった時は

嬉しかったです。とはいえ、『カラス~』読んだの大分前だから、全然内容

覚えてなくって、誰が誰やら状態だったんですが・・・^^;少し、復習

してから読めば良かったかなぁ。せめて、映画観ておけば良かったな(映像

で観てると、結構内容覚えてたりするんで)。

詐欺師集団のお話なんですが、主人公のタケさん(武沢竹夫)は、詐欺師から

はすでに足を洗って、今は実演販売士として生計を立てています。まっとうに

生きようと決心していた竹夫だったが、実演販売中に謎の中学生キョウが現れ、

実演販売士の弟子にして欲しいと言ってくる。事情を聞くと、キョウの母親は、

かつて竹夫が飛び降り自殺から救った女性で、詐欺に遭い、絶望して自殺を図って

いた。キョウの願いは、母を騙した詐欺師のナガミネを捜し出すこと。その為に

は、探偵を雇う費用が必要であり、その資金を稼ぐ為、天才キッズを発掘する

テレビ番組に、実演販売で出演したいのだという。その番組は、優勝すると20万

円分の商品券がもらえるのだ。キョウの願いを聞きれた竹夫は、その日からキョウを

アパートに泊め、実演販売の特訓をすることに。そんな中、二人はたまたまポストに

入っていたチラシの中に、格安の探偵事務所を見つけ、試しにナガミネ捜しを依頼

する。

数日後、竹夫は探偵から依頼の調査報告を受けたが、キョウには告げられない結果

だった。一方、特訓の甲斐もあり、番組に出演出来る資格を得たキョウだったが、

当日、思いがけないことが次々と起こってしまう。

キョウが受ける数々の理不尽に心底腹を立てた竹夫は、かつての仲間たちと共に、

再び派手なペテンを仕掛けることに――。

道尾さんらしく、様々な騙しの手法が散りばめられた作品です。次から次へと

意外な事実が明らかになって行き、終盤はもう、どこまで嘘なのか、誰が嘘を

ついていたのか、何が何やら状態。いろんな人が、誰かのために嘘をついていて、

真実が明かされる度に、『そうだったのか~!』と思わされました。

前作も似たようなことを思いましたが、詐欺は倫理的に良くないことだけれど、

今回竹夫たちが企てたペテンは、ただひたすら、ある人物の為を思ってやったこと

であって、温かくも優しい嘘に心を打たれました。そして、その詐欺のプロ

でもある竹夫たちでさえ、ある人物に騙されていた。たくさんの嘘が出て来る

お話ではあるけれど、そのどれもが切なく、優しい。キョウの身の上は、あまり

にも酷いし、中学生にしてみれば、理不尽でしかないと思う。それでも、キョウ

は竹夫たちに出会えたことで、少し救われたんじゃないかな。結果として、父親

のことも、キョウが望む通りの展開になった訳だしね。

しかし、今回一番活躍したのって、貫太郎とやひろの子供(小6)、テツ(鉄平)

じゃないですかね。小学生にして、あの頭脳はすごい。元詐欺師の子供だから

なのか、やたらに知恵が回って、今回のペテン計画では、その頭の回転の早さの

おかけで、何度もピンチを救ってくれました。

竹夫のアパートに仕掛けられた盗聴器を発見したのもテツだったし、探偵の津賀和

のパソコンから大事な情報を盗んだのもそうだし。他にもいっぱい。どんだけ、

優秀なんだよー。これだけ頭がいいと、将来何にでもなれそうですね。その頭を

悪い方にだけは使ってほしくないけれど。特に、詐欺師にだけはならないで

ほしい。タケさんを始め、周りの人間がいい人ばかりだから大丈夫だとは

思うけれど。本人もとても良い子だしね。きっといい大人になりますよね。

今回も、道尾さんの掌の上で大いに転がされてしまった。キョウの一番の願いが、

いつか叶うといいな。そして、タケさんと再会してほしいです。

 道尾さんの良さがいっぱい詰まった、良作でした。