ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

「みんなの少年探偵団」/本多孝好「魔術師の視線」

珍しく連続投稿。連休ってほんといいなー。
夕方から出かける予定はあるけど、日中はのんびりなので読書記事でも。
今日は穏やかな天気なので、窓から差し込む陽の温かさに睡魔が・・・。
頑張って書かなくては。

今回は二冊読了。アンソロジーと長編と。
一冊づつ感想を。


「みんなの少年探偵団」
ポプラ社が、江戸川乱歩生誕120週年を記念して刊行した、気鋭の作家たちによる、
少年探偵団へのオマージュ・アンソロジー
寄稿作家は、万城目学湊かなえ小路幸也、向井湘吾、藤谷治。なかなか豪華。
向井さんだけ全くお名前すら存じ上げませんでした^^;
それぞれに、怪人二十面相や少年探偵団(小林少年)に対する愛がとても
感じられる作品になっていると思います。
装丁も、かつての小学校の図書室で見かけたような、あの乱歩の児童書の体裁
そのままのような装丁が使用されています。
とはいえ、私自身は小学校時代に少年探偵団ものを読んでいたかというと・・・
多分一冊も読んでないです^^;
もちろん、図書室には確実にありました。でも、その頃はミステリなんて全く
興味なかったんですよねぇ。ああ、惜しいことをした・・・。
内容的には、各作家の話が繋がっている訳ではないと思うのですが、一冊通して
読んでいると、微妙にリンクしているようにも思えたりして、個別の単なる
アンソロジーって感じもしなかったのですよね。それはベースになる少年探偵団の
お話があるからってわけじゃないように思ったのですが。とにかく、本家をきちんと
読んでいないので、どの辺が脚色なのか元ネタにもあるものなのか、ちょっと
わからなかったです。もちろん、わからなくても十分楽しめる内容になっているので
問題はなかったのですけれどね。

軽く、各作品の感想を。

万城目学「永遠」
双子の少年が、泥棒らしき謎のおじいさんと出会ったことで、自らの進むべき道を
見つけるお話。って、書いても何が何やらですね^^;宝石の台座を巡る二人の冒険に
ワクワクドキドキ。ちょっと、読んでて「悪童日記」の双子を思い出しちゃいました。
二人が目指す道の答えには唖然。怪盗二十面相と明智探偵にこんな関係があったとは!!(驚愕)
って、こんな大胆な説を唱えちゃって大丈夫なのか?^^;

湊かなえ「少女探偵団」
体操の大会で全国大会に行けず落ち込むカスミに、おばあちゃんが語ったのは、かつての
自分の少女時代体験話。おばあちゃんは、ホテル「龍宮館」で繰り広げられた、怪人二十面相
明智探偵との対決に居合わせていたのでした。
洞窟を利用した地下室に閉じ込められた少女時代のおばあちゃんと小林君の冒険にハラハラ。
洞窟好きとしては、こういうシチュエーションにはやっぱり興奮しちゃいますね。

小路幸也「東京の探偵たち」
探偵の下っ端が巻き込まれた、巷を騒がす不可思議な吸血鬼騒動の真相とは。かつての
小林少年は、41歳に。騒動の顛末は、正直煙に巻かれた感じで腑に落ちなかったけれど、
騒動の根本にあるのは、やっぱりアノ方ということで。素人は手を出さない方がいいんで
しょうね。

向井湘吾「指数犬」
はじめましての作家さんですが、なかなかおもしろかった。ある少年が、道で突然怪しい
おじいさんに「一日経つごとに倍の数に増える「魔法の犬」はいらないか」と話しかけられる。
犬が欲しかった少年は、倍に増えるなどどうせ嘘だと高をくくって譲り受けてしまう。
すると、翌日以降、本当に犬が倍づつ増えて行ってしまい、少年はパニックになる・・・。
なんか、ドラえもんにこういう話ありましたよね。犬が増えるトリックは、なるほど、
と思いました。ちゃんと、教訓譚としても読めるところが秀逸だな、と思いました。

藤谷治「解散二十面相」
二十面相をやっていること自体に疑問を覚えた二十面相が、突然仲間たちに「二十面相を
辞める」と言い出すという、なかなかユニークなお話。語り口もちょっとくすりと出来る
感じですし、拗ねてる二十面相のキャラがなんとも憎めなくって笑えました。ラスト、
やっぱり、二十面相はいつまでも二十面相のままでいてほしいと思えました。藤谷さんの
二十面相愛が感じられる一作でした。



この企画の第二弾がすでに藤谷さん名義で出ているのですよね。第二弾はアンソロジーでは
なくて長編みたいですね。そちらもちょっと気になる。万城目さん湊さん目当てで予約
したけど、企画自体がとてもおもしろかったですし、乱歩回帰にもちょうおいい作品
なのではないでしょうか。



本多孝好「魔術師の視線」
本多さん最新作。アラフォーのビデオジャーナリスト楠瀬薫が、かつて世間を騒がせた
「超能力少女」諏訪礼と再び出会ったことで、事件に巻き込まれて行くことになる話。
嘘つき少女・諏訪礼のキャラクターは、最後を読むまでずっと掴みどころがなかったです。
いい子なのか、悪い子なのか。どちらも持っているのか。
序盤はちょっと作品に入って行くのに苦戦したのですが、中盤からは緊迫した展開で、
さくさく読み進めて行けました。二転三転する物語に、最後はいったいどうなって
しまうのかとハラハラしたのですが・・・うーむ。なんとも後味の悪い結末。本多さん
にしては、黒い結末だなぁと思いました。作品としては、意外性があって面白かった
ですけども。
礼の母親も父親も、印象最悪だったのですが、最後の真相を知って、見方が変わりました。
そりゃ、娘がこういう子だったら、親はたまらないでしょうね・・・。
薫の元に礼がやって来た理由を知って、背筋が震えました。礼と薫と猫一匹で、
しばらくは平穏に暮らすのだろうと思っていただけに、ラストのあの展開は強烈でした。
これもある意味サイコパスのお話なんでしょうね・・・。
今後、二人はどうなって行くのでしょう。薫の身が心配ですが。薫は薫で、贖罪の気持ちが
あるから、一緒にいるしかないんでしょうね・・・。どちらが先に音を上げるのか、
その先が知りたいような、知りたくないような・・・。
切なくて優しいお話が多い本多さんですが、珍しく人間の悪意の本質をついた作品を
書かれたな、という印象でした。
読後感は最悪でしたが、読み応えのある力作だと思いました。