ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

千早茜「さんかく」(祥伝社)

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千早さん新刊。最初は、三角形の食べ物ばかりをテーマにした短編集なのかと

思ったのですが(一話目が塩むすび、二話目がにんじん、三話目がミックスサンド

だったため)、そういう訳ではなかったようです(その後は四話目キャベツ、

五話目餃子・・・と関係ない食べ物が続くので)。どちらかというと、恋愛の

三角関係のさんかくの意味合いが強いのかも。三人の人物が順番に主役を

務めて行く形で物語が進んで行きます。一人目は、京都の古い町家に住む、

三十半ば過ぎのフリーのデザイナー、高村夕香。二人目は、大阪の会社で

営業として働く、夕香とは六歳下の伊東正和。三人目は、大学院の研究室で

動物の解剖を学ぶ、正和の三歳下の彼女、中野華。

正和は華という彼女がいながらも、食の趣味が合う夕香と度々食事を共にしている。

加えて、外食以外でも、料理上手な夕香は、度々正和に手料理をご馳走して

くれる。それが実に旨いので、つい手料理を食べに夕香の家に行ってしまう。

夕香は夕香で、正和のことを恋愛対象には思えないものの、美味しそうに自分が

作ったものを食べてくれる正和に、ついつい施しをしたくなってしまう。

一方の華は、恋人の正和との時間を大事に思いながらも、研究室に動物の死体が

運びこまれると、約束そっちのけで死体の解剖に夢中になってしまう。恋愛よりも

学業を優先してしまうため、つい正和のことをほったらかしにしがちだ。

微妙な関係を続ける三人だったが、ある日正和は夕香からルームシェア

持ちかけられる。利害関係が一致した二人はルームメイトになるが、正和は

華にそのことを打ち明けることが出来ず、華は正和の微妙な変化に違和感を覚えて

行く。そして、次第にそれぞれの関係が変化していくのだが――。

食の好みが合うって、私は付き合う中でかなり重要だと思っています。そういう

意味で、正和が食に興味のない華より、美味しいものを一緒に美味しいと

言い合える夕香とご飯を食べたいと思うのは、仕方がないことかもしれない

なぁと思いました。私自身、食に興味のない人間と一緒に食事したいと思わない

もの。夕香と正和二人のパートでは、出て来る食べ物がいちいち美味しそうで

お腹が空いて来たのだけれど、反対に華パートでは動物解体時の悪臭や血臭が

臭って来るようで、ちょっと気分が悪くなりました。どちらも、千早さんの

文章描写がいい意味でリアルに迫って来るせいかもしれませんが。華みたいな

女の子を好きになると大変だろうなぁと思います。大学で研究室に入るような

人は、大なり小なりこういうオタクな要素がある人ばかりなのかもしれませんが。

そうじゃなきゃ、研究なんて出来ないでしょうしね。ただ、それに付き合う人間は、

やっぱりある程度研究に理解がある人じゃなきゃ無理だろうな。華の悪いところは、

きちんと自分の研究のことを正和に伝えていないところ。どうせ理解されない

だろうとはなから決めつけているようなところがあって、それじゃわかりたくても

わかりあえないだろう、と思いました。研究内容が内容なだけに、女の子として

言い難いことはわかりますけどね。正和の方も、付き合っている彼女がいるのに、

安易に年上の女性とルームシェアするってのがあり得ない。どっちも少しづつ、

お互いに歩み寄りが足りなかったな、と思いました。

正和が最終的にどっちの女性に行くのか気になりながら読んでいたのですが、

最後は割合あっさり決着がついて拍子抜け。っていうか、夕香がああいう決断を

しなかったらどうなっていたのだろう。それを受けて、結局元サヤに戻ろうと

する正和の態度にイラっとしました。まぁ、この経験があったからこそ、一番

大事なのは誰なのかがわかったのかもしれませんけど・・・なんか、調子良すぎな

印象は否めなかったな。

夕香が作る料理はどれも美味しそうでした。ぱぱっと自分で何でも美味しく

手際良く料理できちゃう手腕は憧れます。私は料理自体は嫌いじゃないけど、

手際が悪いんですよね。ついつい時間がかかっちゃう。短時間でささっと

作れる能力が欲しいです・・・。でも、手間暇かけて作る料理も嫌いじゃない

ですけどね。美味しければ何でもよし。

土鍋で炊いたご飯で塩むすびが作ってみたくなりました。

中途半端な三角関係のお話ですが、それぞれの感情描写が巧みで、ぐいぐい

読まされてしまいました。共感出来るお話ではなかったですけどね(苦笑)。