少し前に読んだ『赤い月の香り』の一作目。前回読んだのが続編だと知らずに
読んだ為、文庫が新着図書に載っていたので、この機会に、と借りてみました。
前作で登場した謎の人物・一香が主人公として登場。なるほど、天才調香師の
朔と一香の過去には、こういう物語があったんだ、と知ることができて良かった
です。
重い過去を抱える一香のせいなのか、終始ほの暗く湿った空気感が漂う作品
でしたね。もちろん、朔の住む館の雰囲気のせいもあるでしょうけども。
人並み外れた嗅覚を持つ朔が作り出す香りを求めて、様々な人が館にやって
来る。亡くなった夫の香りを作って欲しいという未亡人、入院している息子の
生きる力を呼び覚ます香りを作って欲しい刑事、傷口の香りを作って欲しい
というデザイナー・・・どれも、抽象的過ぎて私にはピンと来ないのですが、
朔なら簡単に作り出してしまう。恐るべき才能だと思いました。
毎日朔の館で働くうちに、一香が少しづつ朔の館に馴染んで行くのがわかったので、
終盤の唐突な展開には面食らわされました。まぁ、二作目から読んだので、こう
なることはわかっていたのですが・・・。突然朔が一香をシャットアウトしたので、
腑に落ちない気持ちになりました。でも、最後の行動で、その理由を知ってやっと
彼の言動に納得が行きました。朔は朔で、初めて抱える気持ちに戸惑い、惑わされて
いたのですね。人形みたいな、無機物みたいな朔にも、こういう感情があると
わかってほっとしました。二作目のラストで、二人の関係に変化ができるシーンが
あったので、その部分をもう一度読み返したくなりました。今日図書館行ったので
置いてあるかもと探したのですが、残念ながら置いてなかった。まだ、予約が入って
いて開架に並んでないのかな~。
一香の兄に対する後悔に関しては、仕方がないことだと思いましたね。あんな態度
を取られたら、無視したくなるのも当然だし。でも、やっぱりあんな現場を見て
しまったら、目を背けて心を閉ざしたくなりますよね・・・。朔がその扉を開けて
あげられて良かったのだと思います。兄の最後の言葉は一体何だったのでしょう。
一香や母親に対する恨み言だったのでしょうか。それとも二人に対する本当の
思いや謝罪の言葉だったのか。結局、何もわからず仕舞いなので一香同様、しこり
のように胸にもやもやが残りました。
仄暗い空気感の中で、庭師の源さんとのシーンだけが、一服の清涼剤みたいに
ほっと出来ました。一香とのシーンは、祖父と孫みたいで微笑ましかったし。
源さんの正体にはびっくりしましたけど(って、二作目にも出て来てたかな?)。
一香のアパートの大家さんもいいキャラでしたけどね。大家さんが育てている
つる薔薇のクリムゾンスカイ、どんな花なのか気になりました(薔薇フェチ)。
文脈から様々な香りが匂い立つような、独特の世界観を持つ作品でした。やっぱり
このシリーズの雰囲気いいなぁ。好き。また続編書いて欲しいです。
調べてみたら、クリムゾンスカイは今でも普通に流通している赤バラのようです。
写真見たら、明るくて鮮やかな赤色が美しいつる薔薇でした。生で見てみたい~。