ミステリ読書録

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長岡弘樹「風間教場」(小学館)

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教場シリーズ最新刊。お正月にドラマ放映したばかりだから、タイムリーに

出版されましたよね。正直、ドラマ化のニュースで風間がキムタクって聞いた

時は、『全然合ってないよ~~~勘弁して!』って思ったんですけど、実際

観てみたら、意外とハマっていて良かったです。今までのキムタクの演技とは

ちょっと一皮も二皮も剥けた感じがしました。生徒役の役者さんたちもみんな

熱演で良かったですし。ドラマも続編期待したいです。

さて、本書はシリーズ初の試みがたくさん。まず、シリーズ初の長編。そして、

シリーズ初の風間視点。それに、今年度の風間教官に課せられた課題は、一年間

誰ひとり退職者を出さないこと。今まで、数々の生徒を篩にかけて退校させて

来た風間にとって、一人の退校者も出さずに一年を乗り切らなければならない

ことは、なかなかにハードルが高い。もし退校者を出したら、風間も教官を

辞めなければならない。厳しい警察学校で、風間は一年間退職者ゼロを達成

できるのか――。

風間視点になったことで、今まで冷酷で鬼のような教官だった風間のキャラクターが

全く別人のように思えました。こんなに内面は生徒思いで温和だったの?と

驚きの連続。意外と小さなことで動揺したりするし。全く笑わない(ラグビー

稲垣選手じゃないですが^^;)と思っていたのに、そうでもないし。

いきなり人間味がありすぎて、ちょっと戸惑うことの方が多かったですけど。

もちろん、優秀な教官であるという点では変わりないのですが。生徒の小さな

言動の齟齬にも良く気がつくし。さすが、という面もたくさん出ては来ますし。

今までの教場シリーズとは大分趣が違っていて、これはこれで面白かったものの、

風間というキャラクターを考えた場合は、ここまで人間味を出してしまうのは

どうなんだろう、という気もしました。いや、これはこれで魅力的なんですけどね。

途中で風間が生徒に不意打ちをくらって驚かされたりするシーンとか、風間らしく

ないなぁという場面がちょこちょこ出て来るのですが、最後にその理由がわかって、

衝撃を受けました。

読書メーターの感想見てたら、これが最終巻じゃないかと言っている方が多かった

のですが、このラストを受けたら、そう思ってしまうのも仕方がないかも。

この作品がなかったら、風間が教官である限り、生徒を変えていくらでも続け

られそうなシリーズだと思っていたのですが・・・。

風間が毎朝の日課として掲示板を見ている理由に胸を打たれました。人を教える

立場の人間、しかも警察官として一人前に育てるということは、こういう思いを

抱えることなんだな、と襟を正される思いがしました。

新しく赴任してきた校長の久光は、風間に退校者ゼロをけしかけたり、神出鬼没で

言動が意味不明だったりして、全く捉えどころのない人物という印象だったの

ですが、最後には憎めないキャラクターに変わっていました。プールでの出来事

はあまりにも衝撃的で息が止まりました。無事で良かったです。風間の秘密にも

気づいていたし、実はかなり切れ者なんでしょうね。

ラストの一文を受けて、シリーズは今後どうなって行くのか。これで終わりは

ないと思いたいなぁ。そういえば、問題児だった宮坂君がかなり成長していて

嬉しかったです。風間の教えは、着々と後輩に受け継がれているようですね。