ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

黒田研二「家族パズル」(講談社)

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久しぶり過ぎるくろけん新刊。図書館の新刊情報で名前を見つけた時は、

『うおぉ!』と叫びそうになってしまった。だってほんとに久しぶりに名前

見たからさ。

・・・と、私は思ってたんだけど、なんかネット検索してたら、どうやら最近は

ジュヴナイルっぽいところで活躍されているらしい。し、知らんかった。

さて、本書。久しぶりだからなのか、なんか、作風が大分変わっている・・・。

年をとってくろけんも丸くなったからなんでしょうか。こんな、家族の優しい、

あったかいお話を書かれるようになったとは!五作が収録されていて、全部が

家族を扱ったお話なのですが、どれも甲乙つけがたい良作ばかり。もちろん、

ミステリとしても楽しめますが、それよりは家族に纏わる感動作という印象の

方が強かったです。くろけんがこういう作品書かれるとは、意外だったなぁ。

でも、とても良かったです。表紙のわんこが愛らしい。首にかけたペンダントが

ああいう風に効いてくるとはね。

では、各作品の感想を。

 

『はだしの親父』

父が亡くなり、六年ぶりに実家に帰った夏彦。父とは折り合いが悪いまま東京に

出て来てしまった夏彦は、死に目にも会えなかった。実家に帰って兄と弟に

父の死に際のことを聞くと、父は亡くなる直前、雨の中、病院の中庭を靴を

履かずに歩いていたという。いつも身なりに気を使っていた父がなぜそんなことを

したのだろうかーー。

夏彦の父が病院の中庭を靴も履かずに歩いた理由に、胸がいっぱいになって

しまいました。他の兄弟の父親との秘密の真相もしかり。父親は、いつだって

子供のことを大事に思ってくれていたんですよね・・・。夏彦の現在の姿、

見てほしかったなぁ・・・。夏彦の師匠も、姿は出て来ないけど良いキャラ

でしたね。弟子想いの素晴らしい師匠だと思いました。

 

『神様の思惑』

妻と双子の子供と遊園地にやってきた僕は、三人がアイスを買いに行っている間、

迷子の子供と一緒にいる清掃員と出会う。しばらくして僕は、その男が子供の頃

近くの公園に住み着いていたホームレスの『カミさん』だということに気づく。

僕は当時自殺願望があり、カミさんに救われた。しかし、カミさんはその後

僕の同級生を殺し警察に捕まった――。

カミさんが子供を殺して捕まった事件の真相に胸が締め付けられました。どこまでも

優しいカミさんの人生が切なくてならなかったです。

 

『タトウの伝言』

高額の給料に目がくらんで採用試験を受け、振り込め詐欺の集団に就職することに

なってしまった孝介。慌てて辞退したが、採用時の書類にサインしたため、辞退の

場合は高額の違約金を払わねばならないと言われてしまう。やむを得ず、父の

形見の絵画を狙って、自分の母親に振り込め詐欺の電話をかける羽目になるの

だが――。

お母さんグッジョブ!って言いたくなるお話。これぞ、母は強し。父の形見の

絵画の中身に心温まりました。作中に出て来るタトウのこと、私も知らなかった

です。絵を描く方なら知っているのかも?

 

『我が家の序列』

突然会社をリストラされてしまった俊輔。雨の中ずぶ濡れで帰途につこうと

していると、公園の方から獣の鳴き声が聞こえて来た。振り返ると、雨に

濡れた貧相な犬が佇んでいた。そのまま俊輔が行こうとすると、なぜか

後からついて来る。何度か振り切ろうとするが、結局自宅までついて来てしまう。

首輪はないものの、その犬の首にはペンダントのようなものがかかっていた。

誰かの飼い犬のようだ。無視して家の中に入ってしまおうとドアを開けようと

すると、鍵がかかっていた。いつもなら家にいるはずの妻や子供たちが誰も

いないらしい――。しばらく途方に暮れていたところに、娘が帰って来た。

犬がいることに驚いた娘に事情を話すと、娘は『この犬飼おうよ』と言い出した

――。

犬のボンドがとにかく可愛いし健気。それだけに、最後が悲しすぎる・・・。でも、

ボンドの飼い主にはびっくり。こんなに長い間気づかなかったってのがちょっと

信じられないものがあるけれども。ボンドの名前の理由にもほろり。こんなに

いい家族がいるのに、今まで仕事ばかりで家庭を顧みなかったとは、俊輔は

本当にもったいないことをしていたと思う。でも、これからは家族がひとつに

なれるかもしれないですね。

 

『言霊の亡霊』

母親の一言がきっかけで不仲になった母と圭介。母から離れて一人暮らしをする

圭介の元に、実家の隣のおばさんから連絡があるまで、一年ほど会話もして

いなかった。隣人のおばさんは、しばらく母の姿を見ていないと心配して電話を

かけてくれたらしい。急いで実家に様子を見に行くと、実家は真っ暗で荒れ果てて

いた。そして、母親が変わり果てた姿で台所に横たわっていた――。

これはいろいろと騙されましたね~。やられました。キョンちゃんの正体にも、

母親が幼い圭介に投げかけた冷酷過ぎる言葉の真相にも。

最後に明かされる真相は切ないしやりきれないとも思うけれど、圭介が真実に

気づいたことで母親への思いが変わったことは良かったのではないでしょうか。

キョンちゃんの世話は大変だと思うけど、理解のある妻がいることも圭介の

救いじゃないのかな。なかなかこんなできた奥さんいないと思うな。

 

 

どれも良かったけど、個人的には『はだしの親父』と『我が家の序列』が

好きかな。ミステリとしてならラストの『言霊の亡霊』も捨てがたい。

くろけんファンじゃなくても、たくさんの人に読んで欲しい良作でした。

オススメです。