ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

白石睦月「母さんは料理がへたすぎる」(ポプラ社)

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はじめましての作家さん。図書館の新刊情報で見かけて、タイトルが気になった

ので借りてみました。ポプラ社からの出版ということで予想はしていましたが、

やっぱりジュヴナイルというか、YA向け作品でした。

父親を事故で亡くした家族のお話。一話ごとに主役が代わりますが、一応

メインの主人公は長男の龍一朗君になるのかな。料理が上手だった父親が

突然亡くなって、料理下手な母親の代わりに主夫をすることになった龍一朗

はっきりいって、料理の腕はそこらの主婦よりよっぽど上じゃないでしょうか。

三つ子の妹の面倒も良く見るし、ほんとにいいお兄ちゃん。母親は家庭の大黒柱

としてバリバリ働くキャリアウーマンだから、家事が苦手でも仕方がない

のかな。龍一朗がいなかったら、この家はどうなっていたのだろうと思うと、

ちょっとぞっとしますけど。

でも、学校では至って普通の男子高校生。可愛い女の子に片想いしてフラれたり、

友人と気まずくなって関係がこじれたりと、それなりに青春エピソードが

挟まれます。でも、家に帰れば立派な主夫。家計のことも考えて贅沢もしないし、

しっかりしてるなぁって感心しました。

小学生の三つ子ちゃんもそれぞれに個性があって可愛らしい。夢の中の父親に

会える能力を持つ渉、母親の為に一人でバスに乗って山に食材を探しに行く

行動力のある透、龍一朗の先輩に恋するがゆえ、バイト先のコンビニに

通ってしまうおませな蛍。どの子のエピソードも愛らしくて微笑ましかった

です。なんで可愛らしい女の子なのに、男の子みたいな名前にしたのかは

謎ですが(蛍はともかく、渉と透はどう考えても女の子につける名前じゃない

ような・・・)。

私生活はだらしないけど、仕事はしっかりして、サバサバした母親の性格も

好感持てました。ちゃんと、子供たちのことは見ていてあげているのがわかるし。

料理は下手でも、しっかり母親なんですよね。お見合い相手との関係がどうなる

のか、そこの結末が中途半端なので、どうなるのか気になりましたけど。まぁ

あの感じだと上手くいくんだろうなぁ。武蔵(父親)は寂しいだろうけどね。

三話の父親視点の話でいきなりファンタジー世界になるので、ちょっと戸惑い

ました。児童書ならではの設定とも云えるかも。父親に会えるのが渉だけ

というのは、ちょっと不公平な気もしましたけど、それだけ感性が強いって

ことなんでしょうね。二人でお店を切り盛りするところにほんわかした気持ちに

なりました。

最後、みんなそれぞれに幸せになれて良かったです。ただ、龍一朗が椿原さんと

結局どうにもならなかったのが気の毒でしたけど。他はみんなカップルになった

のに(苦笑)。彼氏と別れたらしいから、これは龍一朗にチャンスが回って

来たのか!?と期待したのだけれど。人の恋心はそう簡単にはいかないって

ことなんでしょうかね。

母親が料理するシーンがほとんど出て来ないから、タイトルこれでいいのか?

と思いながら読んでたんですけど、最後の話でこのタイトルにした意味がわかり

ました。龍一朗にとっては、母親が料理が下手だったことが、幸いしたんですね。

料理で人を幸せにしたいという龍一朗の強い思いを知って、こういう子は将来良い

料理人になるだろうな、と思えました。親友の辰美君と切磋琢磨して料理の腕を

磨いていって欲しいです。

登場人物それぞれの成長が伺えて、爽やかな青春ストーリーでした。