ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

今野敏「清明 隠蔽捜査8」(新潮社)

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待望のシリーズ最新作。大森署の署長から神奈川県警の刑事部長に出世したばかり

の竜崎は、着任早々県境で起きた死体遺棄事件の操作本部長に着任した。現場が

県境だった為、警視庁との合同捜査本部となり、警視庁刑事部長の伊丹と共に

捜査指揮を取ることに。そんな中、妻の冴子がペーパードライバー教習中に交通

事故を起こしたとの知らせを受けた竜崎。急ぎ妻の元に駆けつけるのだが――。

ようやく本来のポストに帰り咲いた竜崎の新しい職場での活躍が描かれます。

まぁ、どこにいても、竜崎自身の言動に変わりはなく、相変わらずブレない

性格だなぁって感じですけど。

町田で起きた死体遺棄事件に関しては、最後ちょっとご都合主義な印象は否め

ませんでしたけど、テンポ良く展開されるストーリーはやっぱり読んでいて

面白かったです。竜崎の合理主義的な考え方に、お硬い捜査官たちの態度が軟化

していく辺りも、いつもの通りでスカッとしました。偉かろうが下の立場だろうが、

竜崎の相手に対する態度はいつも変わらない。偉い人にへりくだることもないし、

下の立場の人間に高圧的になることもない。いつも竜崎は竜崎。そこにほっと

します。こんな警察官、なかなかいないでしょうけどね。

今回は冴子さんがペーパードライバー教習に行ってちょっとしたアクシデントに

巻き込まれる(というか、もともとは自分が起こした事故のせいだけど)のですが、

そこでも竜崎のブレない姿勢で彼女の危機を救うことに。この時の竜崎と冴子

さんのやり取りがすごい好きだったなー。冴子さん、自分がピンチの時なのに、

なぜか心配してやって来た竜崎を叱るという。竜崎の立場で交通事故の現場に

乗り込んで来たら、権力を振りかざして事故をもみ消しに来たと取られかねない

って。さすが冴子さんだなぁと思いました。これが図々しい人間だったら、竜崎の

権限で事故をもみ消してって言うところだと思うけど。ちゃんと、自分の立場

や竜崎の立場を弁えているところが素敵だなぁと思う。それをあの竜崎相手に

叱ってしまうのだから。ほんと、いい奥さんだなー。しかし、そのしっかり者の

冴子さんが、なぜ教習所内で事故を起こしたりしたのか、そこがちょっと

腑に落ちなかったのですけどね。意外と抜けているところもあるのかなぁ。

冴子さんの年で、もう一度車を運転したいと思うこと自体もなかなかすごい

と思うけどね。竜崎が公用車を使えない状況の時とか、役に立ちそうです。

更に冴子さんに頭が上がらなくなりそうな気もしますけど(笑)。

同じ立場に立った伊丹とのやり取りも楽しかったです。個人的には、署長の

立場なのに刑事部長である伊丹と対等に渡り合う竜崎ってシチュエーションが

好きではあったのだけど。竜崎が、警視庁所属の伊丹が、神奈川県警の

捜査官たちを下に見ていると憤り、糾弾するところが好きだった。竜崎に

言われて、態度を改める伊丹の素直さもいいけどね。二人とも、警察ヒエラルキー

のトップにいる割に、幼馴染時代と関係が変わらないところがいいですよね。

やっぱり、この二人の関係が好きだなぁ。

今回、事件の関係者がみんなあの国の人物で、なんとなく今の世の中を考えると

微妙な気持ちになってしまいました。まぁ、今回のような事件は今の日本でも

日常的に起きているんだろうなぁとは思いましたけどね。

刑事部長になった竜崎のこれからの活躍も楽しみです。