ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

東野圭吾「クスノキの番人」(実業之日本社)

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東野さん最新刊。図書館再開前に予約の本の受け取り期間を設けてもらえたので、

早めに取りに行くことが出来ました。現在は一部のサービスを覗いて開館して

くれていますが。やっと予約も出来るようになったので、予約受付開始日には、

閉館中に出来なかった新刊予約をまとめてやりました。ネットから出来るのはいいの

だけど、9時の開館と同時にアクセスしたら、アクセスが集中してなかなか

画面が先に進まなかったです^^;人気の伊坂さんや湊さんの新刊はあっという間に

予約数が増えてました・・・。これから返却された本はすべて数日間そのまま

置いておくらしく、予約が回って来るのもかなり時間がかかるようになりそうです。

いろいろと厄介だなぁ。まぁ、開館してもらえるだけでありがたいのですけれども。

本書はちょうど閉館中に予約が回って来ていたから早めに読めて良かったです。

東野さんの新作なんか、これから回って来るのにどれだけかかるのやら。

さて、本書ですが。ミステリー要素は控えめな、感動系の東野作品。主人公の

直井玲斗は、勤めていた会社を理不尽な理由で解雇させられ、給料も未払い分が

残っていた為、腹いせに会社に忍び込んで窃盗を働こうと画策する。しかし

あえなく失敗、警察に捕まってしまう。起訴を待つ身で途方に暮れていたところ、

なぜか弁護士が現れ、依頼人が指定する条件を飲むならば釈放してもらえるという。

依頼人は、表向きは祖母ということになっていたが、実は違うらしい。玲斗に

心当たりはなく不審に思ったものの、刑務所行きを免れれたいが為、条件を飲む

ことに。釈放され依頼人の元へと連れられて行った玲斗は、そこで柳澤千舟と

名乗る年配の女性と会う。驚くことに、彼女は玲斗の伯母だという。千舟は、

長らく疎遠になっていた母の異母姉だったのだ。玲斗が警察に捕まったと知り

動揺した祖母が連絡したらしい。驚く玲斗に、千舟が突きつけた釈放の交換条件は、

クスノキの番人』になってもらいたいというものだった――。

クスノキの番人』がどういう役割なのか、終盤まで引っ張った割には、割と

思ったそのまんまだったなぁとちょっと拍子抜け。千舟が頑として玲斗に

その役割を教えようとしなかったから、もっと何かあると思ったのですけど。

神社っていうのは神秘的なパワーのある場所なので、こういうファンタジックな

設定があってもそんなに違和感はないんですけど、実際こういうクスノキ

存在したとしたら、今のSNS全盛の世の中だったら、あっという間に情報が

伝わって、人が押し寄せちゃう気がするなぁ。他言無用と言ったって、大場

のような若者が来る場合もある訳で。こんな今どきの子は、どんなに人に

話すなと諭しても、SNSとかで情報発信しちゃうんじゃないのかな。一人そういう

のがいたら、あっという間に日本全国に情報は拡散してしまうわけで。こんな

ひっそりと伝統が受け継がれるってのはなかなか難しいのでは。まぁ、大場の

場合は結局クスノキのパワーを感じることが出来なかったから発信しなかった

とも云えるし、クスノキのパワーを感じることが出来た人は、その力に感動して

口を噤むのかもしれませんけど・・・と、変なところに引っかかってしまった。

馘首になった会社に逆恨みで窃盗に入るようなどうしようもない人間だった玲斗が、

クスノキの番人になったことで、少しづつ成長していくところは良かったと

思います。何より、玲斗と千舟の関係が良かったですね。千舟の玲斗への態度も、

少しづつ軟化して行ったのがわかりましたし。お互いに信頼関係が結ばれて行く

過程が丁寧に描かれていたように思います。

ただ、引っかかったのは、ヒロインの優美の人物像。どうしても彼女の言動が好きに

なれなかった。入っちゃいけない神木のクスノキに勝手に近づいたり、父親の

行動を知る為とはいえ、盗聴器を仕掛けたり。若い割にやることがえげつない。

しかも、止める玲斗を無理矢理仲間に引き入れて、協力させるし。玲斗も玲斗で、

好意を持っているからといって、それに乗っちゃうし。神聖な儀式の場所の筈

なのに、あまりにも二人の行動が不謹慎なので腹が立ちましたし、玲斗はもっと

クスノキの番人としての自分の立ち位置を弁えるべきなのに、と呆れました。

結局恋愛にまでは発展しなかったしね。今後連絡を取り合ってそうなる可能性も

なくはないと思うけど・・・どうかな。そのまま関係も自然消滅のような気がする。

クスノキ見に来るって言っても、半年とか一年に一回とかのレベルだろうしね。

ラスト、千舟さんの思惑を玲斗が止めてくれてほっとしました。きっと、玲斗に

とっても、千舟さんの存在がとても大切になっているのでしょうね。クスノキ

番人として、これからもずっと彼女を支えて行ってあげて欲しいな、と思いました。