ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

彩瀬まる「まだ温かい鍋を抱いておやすみ」(祥伝社)

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奇しくも、食をテーマにした小説を三作続けて読むことになりました。ほんとに

たまたま続けて予約が回って来たのですけど。多分、予約する時も、ついつい

食べ物に関係する本に手が出ちゃう傾向にあるんでしょうねぇ・・・どんだけ

食いしん坊なのやら。ちなみに、この間のコロナ禍中、ステイホームしていたら、

2キロ以上も体重が増えていまして・・・。先月から緊急事態宣言が明けてジムが

始まったので、今はせっせと泳ぎに通っている最中です。また感染者が増えて

来たから、今後どうなるかはわかりませんけど・・・また自粛生活になっちゃうの

かなぁ。GOTOトラベルとか言ってる場合じゃないですよね・・・。

本書は、彩瀬さんには珍しく、各作品に全くリンクのない短編集。今までは、

主人公がそれぞれ違っても、どこかにちょっとしたリンクがあることがほとんど

だったと思うんですけど。

食がテーマではありますが、あんまりほのぼのした感じではないです。どちらかと

言うと、皮肉というか、ひりつくような痛みを感じるような作品が多い。それでも、

やっぱり彩瀬さんの文章力で読まされてしまう。なんだか、掴みどころのない

お話でも、やっぱり心に沁みるというか。不思議な筆力のある作家さんだなぁと

思いますね。

では、各作品の感想を。

 

『ひと匙のはばたき』

これこそ荒唐無稽なお話というか。感想書きにくいお話。この鳥の正体って何!?

謎がいっぱい。

鳥に憑かれた(守られた?)女性?でも、出て来るお料理がどれも美味しそう

だった。

 

『かなしい食べ物』

初恋の人に作ってもらった思い出の枝豆入りのパンを現在の恋人に作らせる。うーん、

この行動も、私には理解し難いものがあるなぁ。それでも作ってあげる主人公の

透は人間ができているというか。レシピがあるなら自分で作ればいいのにねぇ。

枝豆チーズパン自体は美味しそうだけれど。こういう女性と結婚すると、将来

振り回されそうな感じするけどなぁ。いいのか、透。

 

『ミックスミックスピザ』

不倫した時に食べたミックスピザが忘れられない味になる・・・うぅむ。

うつ病(多分)の旦那と小さな子どもを抱えて、つい不倫したくなっちゃった

気持ちはわからなくもないけど。きっと背徳的な味で忘れられないんでしょうね。

でも、ちゃんと向き合えば、一歩前に進むことが出来る。主人公がちゃんとそれに

気づけてよかったです。

 

『ポタージュスープの海を超えて』

鬱屈した現実を忘れる為に、女二人で旅に出る。いいですねぇ。温泉行きたいっ

てばー。

主人公がスーパーの精肉コーナーでパックの鶏肉を手に取っては売り場に戻し、

を繰り返す場面が出て来るのだけど、今これやったらめっちゃ顰蹙だろうなぁ

と思ってしまった。前は当たり前にできていたことができないって、ちょっと

息苦しく感じるものですね。

 

『シュークリームタワーで待ち合わせ』

最初は空気読めないタイプの主人公に嫌悪しか覚えませんでした。でも、四歳の

息子を亡くした友人を家に引き取って、美味しいご飯を食べさせてあげる過程を

読んでいるうちに、この友人には、一番こういう人が必要だったんだな、と思える

ようになって行きました。やっぱり、食べることは生きることなんだなぁとしみじみ

思わせてくれるお話だった。どんなに辛いことがあっても、食べられれば、いつか

乗り越えられる日が来るんですよね。

 

『大きな鍋の歌』

これはとても悲しくてやるせないお話だけど、いい作品だった。病気になって病院に

入院している親友を、食べ物を持って足繁く通って見舞うお話。主人公と友人、

二人の友情の結びつきが強いが故に、現在の状況を読むのが辛かった。主人公の

高校生の娘がまたすごくいい子で、もっと友人と会わせてあげて欲しかったな

ぁ・・・。美味しい料理が美味しいと感じられなくなるのは悲しい。人間にとって、

味覚って本当に大事なものだと思いました。コロナで味覚や嗅覚がなくなるって

症状が、何気に私にはものすごい恐怖。絶対にかかりたくない。美味しいって

感じることって本当に幸せなことなんだって思う。主人公の友人も、あの世では、

美味しい料理いっぱい食べられているといいなと思う。