ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

万城目学「パーマネント神喜劇」/彩瀬まる「眠れない夜は体を脱いで」

こんばんは。各地で豪雨情報が飛び交っていますね。みなさまのところは大丈夫でしょうか。
こちらも今日は雷雨が凄かったです。梅雨明けもそろそろなのかな。
今週末から南の方に旅行に行く予定なので、台風だけは来ないで欲しいなぁ・・・。


読了本は二冊。


万城目学「パーマネント神喜劇」(新潮社)
万城目さん最新作。分厚いかと思って身構えていたら、拍子抜けするほど薄くて
さらっと読めてしまう作品でした。
とある田舎の縁結び神社の神様が活躍する、笑えて泣けるエンタメ小説集・・・でしょうかね。
四作が収録されていますが、三話目の『トシ&シュン』はアンソロジーで既読でした。
神社の神様ではあるのだけど、そのビジュアルはとても神様からは程遠い。
ヘンテコな柄のシャツに吊りズボン、下膨れ顔に小太りで口調は詐欺師のように軽い。
これでほんとに神様の力なんて持っているの!?と疑りたくなってしまうこと必至。
かなり現代風にデフォルメされた神様像って感じ。仕事もいい加減そうなのだけど、
そこは意外とちゃんとしています。一話目では、しっかり縁結びの神様として、
カップルの恋を成就させてあげているし。最終話では、震災が起きて、自分の神社
がピンチになった時、自分の身がどうなろうと人間たちを守ると言い切っていたし。
ちゃらんぽらんでいい加減なキャラクターに見えても、神様として一番大事なことは
見失っていないってことがわかって嬉しかったです。
面白いのは、日本にいるそうした八百万の神様たちを監視して評価する調査官が
いるって設定。査定に合格すると、今いる神社よりも上級の神社におつとめ出来たり
するらしい。まぁ、この調査官、後にほんとの正体が判明したりもするのだけど。
神様のキャラクターが面白くって、ついくすりと笑ってしまいました。胡散臭い
ことこの上ないのだけど、どこか憎めないキャラというか。なぜか若干口調が
オネエ臭いところも面白かった。
さらっと読めるのであまり深みはないけど、肩の力を抜いて気軽に楽しめる作品
じゃないでしょうか。ネットの評価はいまいちみたいだけど、私は好きだったな。
これの前の『バベル九朔』はわけわからなすぎて全然ついて行けなかったんで、
これくらわかりやすい作品の方が入って行きやすいし。そういえば、『バベル~』
の名前が作中でちらっと出て来ます。あと、嬉しかったのが『かのこちゃんと
マドレーヌ夫人』のかのこちゃんが出て来るところ!他作品とこんな風にリンクが
あるのって、万城目さんには珍しいような。あまり続編とかも書かれない方ですし。
ファンにとっては、ちょっと嬉しいボーナスみたいな感じでしたね。
神様が出て来たり、時間が止まったりとファンタジックな作品なのだけど、軸に
なるのは、男女間の恋愛や人間の業といった人間ドラマ。最後の話では震災のことも
絡んで来て、ちょっと考えさせられる要素も入っています。ただ軽いだけのお話では、
私はないと思ったけれど。神様のキャラが軽すぎるのと、神様界の設定が現代風
過ぎるので、深みがないと取る人も多いのかも。ま、確かに今までの万城目作品と
比べると、ちょっと読み応えはないかもしれないです(本も薄めだし)。
そういえば、この作品の刊行にあたって、新潮社のHPに万城目さんと京極(夏彦)さんの
対談が載っているんですよー!
京極さんが、かなり万城目さんの作品を褒めてらして、万城目さんがめっちゃ
恐縮してる感じが面白かったです(万城目さんはもともと京極さんのファンらしい)。
京極さんも、万城目作品が好きで、エッセー以外はすべて作品を読んでいるのだとか。
意外なような、納得するような(笑)。
最後に、万城目さんが京極さんのサインをねだっているところが可笑しかったです。
興味のある方は是非、読みに行ってみて下さい。


彩瀬まる「眠れない夜は体を脱いで」(徳間書店
綾瀬さんの新刊。綾瀬さんの文章センスが好きで、デビュー作から追いかけています。
多分、小説は全部読んでいるのじゃないかな?確かエッセーみたいなやつが出ていて、
それは未読なんですけど。
今回も、短編集でそれぞれ主人公は違うのだけど、微妙にそれぞれの作品がリンクして
いて、連作短編集と云ってもいいような仕掛けになっています。こういう構成の仕方も
好きなんですよね。単独でも読めるけれど、通して読むともっと楽しめる、みたいな感じ。
全ての主人公に共通しているのは、インターネットのある掲示板を同時に読んでいたという
ところ。ネット上ではわからない、それぞれの事情がそれぞれの話で浮かび上がって来ます。
一話目の『小鳥の爪先』に出て来た白い小鳥のましろって、前にもどっかの作品で出て
来なかったかな?なんか覚えがあるのだけど。顔はいいけど、それ以外はぱっとしない
主人公の和海の鬱屈には、共感出来るような、出来ないような。顔がいいだけに、思い込み
で人物像を周りから作り上げられた挙句、思ったのと違ったと勝手に失望されてしまう
ところは、ちょっと可哀想だな、とは思いましたけどもね。
二話目の『あざが薄れるころ』は、合気道の稽古で練習のペアを組むことになった
真知子と瀬尾の話。年齢も性別も違う二人が、稽古を通して成長して行くところが
良かったです。最後に、ちょっぴり真知子にも恋の兆しが見えましたしね。
三話目の『マリアを愛する』は、幽霊になってしまったマリアと主人公の香葉子の
関係が良かった。マリアに複雑な感情を抱えながら、なんだかんだで彼女の願いを
叶えてあげようとするお人好しな香葉子に好感を持ちました。サバサバした感じのマリアの
キャラも好きでしたね。生前に二人が出会っていたら、友達になれたのかも?マリアの想い人
には驚きましたが。生前に想いを伝えられていたらどうなっていたでしょうね・・・。
四話目の『鮮やかな熱病』は、ラストで明かされる銀行支店長の主人公本藤と、若い女性行員
のめぐみの共通の趣味に微笑ましい気持ちになりました。まぁ、他人には理解されずらい
趣味ではあるでしょうけど・・・(苦笑)。
最終話の『真夜中のストーリー』は、はじめから、この人物の物語だろうと予想
していました。まさか、男性だとは思いませんでしたが・・・みんなが気になっていた
あの掲示板に、こういうからくりがあったとはね。ネットって、ほんとなんでもアリの
世界ですよねぇ。手の汚い彼女の恋の顛末をみんなが気にしていたので、とりあえず
ハッピーな結果でみんなほっとしたのじゃないでしょうか。現実がどうであれ、ね。
やっぱり、綾瀬さんはお話作りが巧い人だなぁ。老若男女いろんな主人公がいましたが、
それぞれにドラマがあって、最後に少し光があって、心にぽっと灯が点るようなほんのり
温かいお話でした。良かったです。