ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

湊かなえ「カケラ」(集英社)

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湊さん最新刊。美容整形をテーマにした黒湊系心理サスペンス。一人の少女の自殺に

ついて、美容外科医の橘久乃が、彼女と関係のあった様々な人々にインタビュー

して行く話。インタビューされた側の独白のみで構成されています。インタビュー

に答える形の独白なので読みやすいとはいえ、同じような形式でずっと物語が

進んで行くので、途中でちょっと中だるみした感じは否めない。インタビュー

される側は大抵の人が聞き手の久乃のことを少なからず知っているのだけど、

彼女の過去の振る舞いのせいで、ほとんどの人が何らかの悪意や嫌悪を持って

話しをするので、久乃自身にも全く好感が持てなかった。ちょっとした言葉の

端々に久乃に対する攻撃的な文言が出て来るので、インタビューされる側の

人物像にも好感持てなかったし。もうちょっとまともな人はいないのか、と途中で

げんなりしてしまった。

ドーナツにまみれて死んだ少女の死の真相は、インタビューが進むにつれて少し

づつ明らかになって行くので、その辺りのミステリ的な面白さはあったものの、

なぜ聞き手の久乃がそれほど彼女の死に興味があるのかは最後までよくわからなかった

な。少女の母親が自分と多少縁のある人間だったからなのかもしれないけれど・・・

過去の二人の関係を鑑みると、久乃自身は少女の母親のことをほとんど覚えてない

くらいの認識だったと思うんだけど。クラスの女王様は、下々の人間のことなんか

見向きもしてなかった筈で。なんで、わざわざ自ら関係者に会いに行くまでして

自殺の真相を知りたがったのか、その辺りの久乃の心理をもうちょっと掘り下げて

欲しかった。いろんなインタビューを通して浮き彫りになったのは、少女の死の

真相もそうなんだけど、橘久乃という美人美容外科医の薄っぺらな人物像だった

気がしてしょうがない。結局、美人はブスだったりデブだったり、コンプレックスを

抱えた人間を底辺だと見做して、見下しているのがまるわかりだったから。

それにしても、ドーナツだけを食べてあそこまで人間って太れるんだろうか。いくら

母親の為だからといって、よく飽きずに食べられたものだ。毎日毎日ドーナツだけを

作るのと、毎日毎日ドーナツだけを食べるの、どっちが苦痛なんだろうか。私だったら

どっちも嫌だー。

出て来る登場人物に好感持てる人間がひとりもいないっていうのは、湊さんらしい。

みんなどこかが歪んでいて、おかしい。

若い頃はどんなに食べても太らなかったのに、年齢が上がるにつれてお腹周りに

肉がついて、ぶくぶく太って行くという焦りの気持ち・・・よくわかります。まぁ、

私はもともと太りやすい体質なので、食べても太らない体質の人間の気持ちなんかは

わかりませんけども。やっぱり、年齢が上がるにつれて、痩せられなくなるっていう

のはすごくよくわかる。このコロナ禍で痛感してます^^;人間って、特に何も

しなくても、動かないだけでこんなに簡単に太れるんだ!って実感しましたも

ん・・・。

だからといって、美容整形したいとまでは思わないですけどね。でも、美しくなりたい

という女性の願望は理解できるので、美容整形に来る彼女たちの心理はリアルに

描けているなぁと思いました。

自殺した少女の直接の動機は、皮肉でしかないですね。相変わらず黒いなー救い

ないなーと思いました。

プロローグとエピローグの久乃の講演は、正直、蛇足に感じました。一冊通して

知り得た他人からの久乃の人物像に全く好感持てなかったので、何を話しても

上辺の言葉としか受け取れない。心に入って来なかったです。久乃自身も美人と

もてはやされながら、医師になるまでものすごい努力をして来たのだと思う。

そういう面がもう少し見える話だったら、説得力があったのかもしれないですけどね。

黒湊全開でしたね。イヤミス好きなら楽しめるんじゃないかな。