恩田さん最新作。ある一定のモノに触れると、そのモノが記憶している過去が見える
不思議な力を持つ散多と、古物商を営む兄の太郎。二人は、理由あって古いタイルを
探していた。それは、事故で亡くなった建築家の両親にまつわるものだった。
そんな中、二人は取り壊し予定のビルに出た、白いワンピースに麦わら帽子
の少女の目撃談を耳にする。散多は、兄の何気ない言葉から、彼女のことを密かに
『スキマワラシ』と呼ぶことにした。あちこちの廃ビルで目撃されるその少女の
都市伝説とは一体何を意味しているのか――。
恩田さんらしい、独特のイメジネーションに溢れた長編小説だと思います。こういう
不可思議な、ファンタジックかつノスタルジックな舞台作りを考えるのが、本当に
お上手だなぁと思います。かなり分厚いのですが、読みやすいのでさくさく読み進め
られました。
あちこちの廃ビルに現れる、白いワンピースの少女の幽霊(?)という、都市伝説
的な設定もミステリアスで、彼女の目的が何なのか、最後までドキドキしながら
読みました。彼女が持っている胴乱に集めているものが何なのかも、気になりました
し。終盤になってそれが何なのか明らかになるのですが、集めているもの自体は
予想外のものでした。ただ、これが何を意味しているのか、それはイマイチ最後まで
よくわかりませんでしたけど・・・。途中で兄弟のどっちかが予想した、ボタンとか
の方が『らしい』と思えたかも。一応幽霊っぽいのだけれど、散多と彼女の遭遇
シーンとかは、緊迫感はあるけれど、全く怖さは感じなかったです。昼間の遭遇
だからっていうのもあるかもしれないけれど・・・彼女自身の雰囲気から、悪意
めいたものを最初から感じなかったからかも。風が吹く草原と共に現れたりするし。
むしろ彼女の存在は、清々しささえ感じるくらいでした。
古物商の兄・太郎の飄々としたキャラクターが結構好きでした。襖の引手の熱烈な
コレクターっていうのも変わってますね。いろんなコレクターがいるもんだ。
引手っていうものが、コレクション出来るタイプのものっていうのも初めて知った
かも。別売りとかするんだなぁ。聴診器型の引手っていうのが途中で出て来るのだ
けれど、一体どんな感じなのか全く想像できなかったなぁ。襖の取っ手が聴診器?
途中で結構風呂敷を広げまくっているので、最後どう収拾つけるんだろう、と
訝っていたのだけれど、恩田さんにしては(←失礼)ほとんど謎は回収されている
のではないかな。先に述べた、スキマワラシが集めているモノの意味はよく
わからないままだったけど。いろいろと都合良く行き過ぎな感じがなきにしもあらず
ではあるけど、兄弟と芸術家の醍醐覇南子とが出会ったのも、出会うべくして
出会ったのだろうし、何か超常的な力が働いて、物語が動いているのような印象を
受けました。偶然も必然っていうか。運命に引き寄せられているって感じかな。
散多の漢字の由来にはずっこけましたけど。自分のせいなんじゃんか(笑)。
両親が生前、がむしゃらに働いていた理由にはほろりとさせられました。願いが
叶わないまま逝ってしまって、切なかったな。でも、その願いが叶っていたら、
兄弟二人の人生も大きく違っていたかもしれませんね。大人になって、ハナちゃん
と二人が出会えて両親も天国で喜んでいるんじゃないかな。仲良くしてねってね。
途中若干冗長な印象も否めないですが、先が気になってぐいぐい読まされる
リーダビリティは健在でした。恩田さんらしいファンタジックミステリーと
云えるんじゃないかな。面白かったです。