ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

青柳碧人「赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。」(双葉社)

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『むかしむかしあるところに、死体がありました。』に続く、童話をモチーフに

した短編集。前作はそれぞれの作品に関連性はなかったですが、今回はヒロインに

赤ずきんを据えた連作短編集の体裁になっています。赤ずきんが他の童話の登場

人物とコラボする形になっているのが面白い。前作では日本の昔話がテーマに

なっていたのに対し、今回は西洋童話がテーマ。出て来る童話は、赤ずきん

に加えて、『シンデレラ』『ヘンゼルとグレーテル』『眠り姫』『マッチ売りの

少女』。子供の頃に親に買ってもらって読んでいた童話ばかりで、懐かしかったな。

今回も、童話に出て来る小道具が非常に上手くミステリに生かされていて、何度も、

上手い!と膝をたたきたくなりました。ただ、赤ずきんの旅の目的が明らかになる

最終話は、引っ張っただけに期待が大きかったせいか、ちょっと食い足りなさは

あったかな。青柳さんだけに、もう一捻りくらいはあるかと思ったので。それでも、

赤ずきんのちょっとニヒルというかダークなヒロイン像に加えて、童話の小道具を

逆手に取った大胆なトリックは前作と比べても遜色なく、十分楽しく読めました。

基本的に、童話っていうのは子供に向けた教訓譚という意味合いが大きく、残虐な

ものも多いものだとはいえ、ここまで救いをなくしてしまうのもなかなかにすごい。

ヘンゼルとグレーテルの兄妹間に隠された秘密だとか、ラストのマッチ売りの

少女のその後とか。もう、めちゃくちゃです・・・(苦笑)。まぁ、その黒さが

このシリーズ(?)の面白いところでもあるわけですが。

トリック的には、『シンデレラ』『眠り姫』がよくできていたかなぁ。

『ヘンゼルと~』も面白かったけど、さすがにツッコミたくなるトリックだった。

でも、アマゾンの評価見てたら、このトリックはお菓子の家がなくても成立するって

書いてる方がいらしたけれど、私は逆に、まさにお菓子の家だからこそのトリック

以外の何物でもないと思いましたけどね。普通の家でこれは無理でしょうが。

赤ずきんちゃんの冷静な名探偵ぶりがなかなか良かったですね。途中で前の話に

出て来た登場人物たちが再登場したりするところも良かったです。一話のラストで

ガラスの魔女がくれたアイテムの伏線があったので、どこかで絶対出て来るだろうな、

と思っていたので、最後に出て来た時は『キタキター!』と思いました(笑)。

日本の童話と西洋の童話、両方やってしまったので、今後はどうなるんだろう。

交互にやるのもいいと思うし、両者を取り混ぜるのも面白そう。もっといろんな

バージョン読みたいです。第三弾も出るといいな。