ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

「ミッドナイトスワン」

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監督:内田英治

出演:草彅剛/服部樹咲/田中俊介/佐藤江梨子/田口トモロヲ/真飛聖 他

 

少し前に観に行って来ました。実は映画の記事はかなり久しぶり。昔は観に行く度に

アップしていたのだけど、読書記事で手一杯になってしまって、いつしか上げなく

なってしまいました。でも、この映画についてはどうしても記事に残しておきたくて、

アップすることにしました。

草彅君の役どころは、トランスジェンダーの凪沙。新宿の片隅で、ニューハーフショー

のステージに立って生計を立てている。お金を貯めて、いつか手術で心身ともに

本当の『女性』になる為、粗末な生活をしています。そんな凪沙の元に、母親から

虐待され、育児放棄された故郷広島の親戚・一果がやって来る。心を閉ざした一果に

手を焼く凪沙だったが、ある日一果がバレエを踊る姿を観て、彼女の才能に気づき、

支援することに。才能を開花させる一果を支えることが生きがいになっていく凪沙

だったが、ある日、そんな二人を引き裂く出来事が起きる。

 

とにかく、主演の二人が素晴らしかったです。草彅君は、完全に凪沙そのもの

でした。始めはビジュアルに戸惑うひとも多そうだけど、観ているうちに、

そんなことは全く頭の中から抜け落ちてしまうと思う。心に痛みを抱えた、孤独な

凪沙を見事に演じきっていた。

そして、一果を演じた新人の服部樹咲ちゃんもまた、とんでもない化け物でした。

演技もさることながら、そのバレエの実力たるや、女優さんにしておくのは勿体ない

くらい。それもそのはず、いくつものバレエコンクールで実際に華々しい成績を

収めているのだそう。なんでそんな才能があるのに女優を?と思わなくもないけれど、

女優としての才能も素晴らしいので、今後どちらの道を行くのか気になるところ。

バレエも続けて行くのかなぁ。何度か彼女がバレエを踊るシーンが出て来るのだけど、

本当に美しいのです。特に、ラストのオデットはすごかった。これを、一番観て

もらいたい人が観れない現実に胸が締め付けられたけれども。

孤独なふたりが少しづつ心の距離を縮めて行く過程がすごく素敵で、息をするのも

忘れるくらい没頭して観てしまいました。

一果とバレエ教室で仲良くなったりんとのエピソードも印象的です。そして、りんの

衝撃的なシーンには、息が止まりました。そうなるんじゃないかな、という予想は

していたのだけれど。あんなふうにあっさりと。その後のことも一切出て来ないし、

それについての一果の気持ちも全く出て来ないけれど、一果が舞台で踊れなくなった

ことがすべてなんでしょう。

後半では、凪沙の衝撃的なシーンもいくつか出て来ます。この部分に対しては批判も

かなり出ているようです。実際のトランスジェンダーの方がどう思うのかが気になり

ますね。実際には、術後のケア次第ではあり得ることらしいです。凪沙が一果と

一緒に暮らしていたら、こんなことにはならなかったはずです。一果を失って

自暴自棄になっていなければ・・・。胸が痛くて苦しくて、仕方がなかったです。

基本、あんまり本とか映画とかで泣かない人間なんですが、この作品はダメでした。

途中から自然と涙が溢れてしまって。終盤は、嗚咽を堪えるのが大変だった。コロナ

対策で前後左右の席が空いていたからまだ良かった。あとマスクしてたし。

観た後しばらく引きずりました。凪沙さんのことを思うともう・・・。でも、一緒に

行った相方は、「ちょっとうるっとしたけど、泣きはしなかったなー。それより、

上映前に流れた『浅田家!』の予告の方が泣きそうだったー」と軽く言ってて、

がっくり。この男の感性はどうなってるんだ!と悲しくなりました(苦笑)。

まぁ、そういう人もいるので、一概に絶賛するのもアレなんですけど・・・^^;

私は未だに凪沙さんの人生を思うと泣きそうになります。せめて、一果が羽ばたいて

くれたのが良かった。どなたかが、凪沙は『白鳥の湖』のオデットだ、と言って

ましたが、そう考えると、いろいろと腑に落ちることが多いです。悲劇のヒロイン

なんですよね。

一果が凪沙にバレエを教えるシーンと、二人でハニージンジャーポークソテー

食べるシーンが大好きです。あと、真飛聖さん演じるバレエ教室の先生に、凪沙が

『お母さん』と呼ばれて、照れ笑いするシーン。もう、完全にお母さんだった・・・。

素敵なシーンがたくさんあるだけに、後半の重い展開が辛いのですけれども。

音楽も素晴らしかったですね。

心に残る映画でした。上映館は少ないけれども、少しでも多くの人に観て頂きたい

です。

草彅君の演技はやっぱり好きだな。ドラマも好きなのが多いけど、映画の『ホテル

ビーナス』が大好きで、あれもラストで泣けて仕方なかったのを思い出す。

この作品で、また俳優・草彅剛の魅力が増したんじゃないでしょうか。

ジャ○ーズに忖度せずに、きちんと評価されて欲しい映画だと思います。