ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

相沢沙呼「教室に並んだ背表紙」(集英社)

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『Medium』で一躍人気作家に躍り出た感のある相沢さんの最新作。本書は

中学校の図書室を舞台に繰り広げられる、青春ミステリー。学校の中で行き場を

失った少女たちが、優しい司書のいる図書室で過ごす中で、自分の居場所を見つけて

行く優しい読み心地の連作集。相沢さんらしいミステリ的な仕掛けもきちんと

挟まれています。司書のしおり先生のキャラがいいですねぇ。こんな優しくて

お茶目な司書さんがいる図書室なら、誰もが通いたくなっちゃうんじゃないかな。

本が苦手な主人公もいるけれど、図書室に通うようになって、しおり先生と親しく

なるうちに、読書の面白さに目覚めて行く子もいます。クラスに馴染めない子

にとって、図書室が逃げ場になるなら、それはそれでありなんじゃないかなと思う。

ちょっとした言動がきっかけで、友達だった女子たちからいじめられるように

なってしまった三崎さんにとっても。料理上手のお母さんが作った美味ししい

お弁当を、トイレで食べなければならない屈辱は、中学生の女の子にとって想像を

絶するものがあると思う。読んでる方も、辛くてやりきれなかった。どんな作品でも、

いじめを扱う作品を読むのはしんどいし、辛い。残念だったのは、いじめの主犯

である、星野たちのことが明るみに出た後も、彼女たちには特に何のおとがめも

なさそうだったところ。結局、クラスのヒエラルキーの上位の人間たちは先生からの

評価も高くて、割を食らうのは被害者だけっていうところが、どうにも許しがたく、

やりきれなかった。被害者である三崎さんの方が図書室登校になって、クラスから

逃げる形になってしまうというのが。確かに、その方が楽なのは間違いないのだろう

し、学校というものがそういう場所だってこともわかっているのだけれど。

できれば三崎さんが、彼女たちにもっと立ち向かって行く結末にしてほしかったな。

しおり先生の優しさに甘えてるだけじゃ、この学校を卒業した後でまた同じことの

繰り返しになってしまうかもしれないから。読書の楽しさを知っただけでは、やっぱり

人生詰んだままになっちゃうんじゃないのかな・・・。だって、その先の人生には

しおり先生はいないわけだから。まぁ、一話目のヒロイン、あおいの存在で少しだけ

報われたかもしれないけれども。

各作品、少しづつリンクがあるのですが、二話目を読んだ時点で、少し違和感を

覚えました。一話目と二話目の時系列はどうなっているんだろう?と。共通して

出て来るのが、しおり先生だけだったから。その理由はその後続いて行くお話で

明らかになっていくのだけど。しおり先生に関しては、完全に騙されてましたねぇ。

違和感には気づいていたのになぁ。しおり先生がなぜ、あんなにマイノリティな

生徒たちに寄り添うことが出来るのか、その理由がわかって溜飲が下がりました。

この作品に出て来るヒロインたちは、みんなどこか学校で上手くやれない子たち

ばかり。私も学生のときは、どちらかというとヒエラルキーの下部組織組の方

だったから(いじめられるとかはなかったけど)、目立たないように、嫌われない

ように、ひっそり教室の隅っこにいたい、という気持ちはすごく共感出来ました。

彼女たちがしおり先生と出会えて良かったです。自分がいてもいい場所があるって

だけで、どれだけ救われるかわからないから。そして、読書に出会えて良かった。

読書嫌いだからって、本を読まずに、他人の読書感想文をパクろうとしたあかね

には呆れましたけどね。今はネットで読書感想文も買える時代だから、こういう

のも当たり前に行われているのかもしれないですけどね(読書感想文の代筆を

親がやるところもあるだろうしね)。

『Medium』とはかなり作風が違うので、あちらを気に入って読まれる人には少し

食い足りなさはあるかもしれません。でも、私はどちらかというと、こういう

作風の方が相沢さんの作品としてはしっくり来る感じがします。派手さはないけれど、

残酷な現実に立ち向かうマイノリティの少女たちに寄り添った、心優しい青春小説

だと思いました。