ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

坂上秋成「紫ノ宮沙霧のビブリオセラピーー夢音堂書店と秘密の本棚―」(新潮文庫nex)

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全く何の予備知識もなかったのですが、図書館の新着案内でタイトルを見かけて、

面白そうだと思って借りてみました。副題に書店がついているし、本好きなら

面白く読めそうな内容っぽかったので(図書館とか書店ものに弱いw)。

受け取って、表紙のラノベっぽさに若干面食らったところはありますが、なかなか

面白かったです。タイトル通り、悩める人々が、山の中に建つ謎の書店の店主と

会話を交わし、自分に相応しい本を指南してもらって読むことで、心を癒やして行く、

というストーリー。

謎の書店の店主、紫ノ宮沙霧のキャラがミステリアスでなかなか良いですね。男性

のような喋り方も高貴な感じが演出されていて似合ってます。夢音堂書店自体の

謎も、彼女自身の謎も全く明らかにされないままですが。これからシリーズが

進むにつれて、少しづつ明らかになっていくって感じなのかな。ファンタジック

な設定には賛否両論ありそうですが。各作品にミステリ的な仕掛けもきちんと

施されているので、楽しめました。

三話が収録されています。一話目の主人公は、友人も好きな女の子もいて、学業

もスポーツもそこそここなし、順調な学校生活を送っているものの、どこかそうした

日常を退屈に感じてしまう男子高校生、長岡蒼矢。

ないものねだりの高校生の話かと思いきや・・・蒼矢のささやかな『嘘』にはすっかり

騙されました。っていうか、全然ささやかじゃないじゃんか。終盤の蒼矢の勇気には

拍手を贈りたくなりました。沙霧さんと出会えて良かったですね。

二話目の主人公は、女子高生作家として華々しくデビューしたものの、二作目の

執筆で担当者からダメ出しばかりを食らってスランプに陥っている作家の藤堂桜子。

沙霧さんのアドバイスが的確で、さすがでした。こういう人が近くにいたら、

作家としてはありがたいでしょうね。まぁ、それに頼りすぎて一時期ダメになった

というのもありますけれど。沙霧さんは、あくまでも完成された作品が読みたい人

なのだから、あまり甘えてちゃダメですね。これからは、一番の読者として桜子

を支えてくれる存在になるんでしょうね。

三話目の主人公は、大好きな先輩への恋心を胸に秘めつつ、告白する勇気は持てない

でいる女子高生の敷島早矢瀬。

彼女が告白できなかった理由は、そういうことでしたかって感じ。まぁ、よくある

タイプの仕掛けではありますが、まんまと引っかかってしまいました^^;

告白した結果はちょっと意外だったなぁ。当たって砕けろで勇気を出した早矢瀬を

褒めてあげたくなりました。多分、普通の告白より、遥かに勇気が要ったでしょう

からね。素敵な先輩で良かったです。

 

店長の沙霧さんが、悩めるお客に一冊の本を薦めて、それを読んだお客は、その日

の夜不思議な夢を見るという設定も面白かったのですが、その本と夢の内容が

どうにもいまいちハマっているように思えなかったのは残念でした。本人の悩みと

リンクさせているとは思うのですが、そのリンクがあまり合っていないというか。

沙霧さんが薦める本が実在するのか気になったのですが、どうやら、そこは作者が

すべて考えたものらしいです。沙霧さんとお客の話の中には、実在する本の名前も

たくさん出て来るので、そこも実在するのかと思っていたのですが。

こんなに来る客が少なくて、どうやって経営が成り立っているのか謎でしかない

ですが、こんな書店があったら私も通いたい!沙霧さんに私にぴったりの一冊を

薦めて欲しいなぁと思いました。

なかなか好みの作品だったので、続編もあるといいな。