ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

伊藤調「ミュゲ書房」(KADOKAWA)

ブログ友達のおんだなみさん、わぐまさんがオススメされていた作品。書店が

舞台でブロ友さんのオススメとあらば、読まない訳にはいきませんよね。北海道

で老舗の書店を営んでいた祖父が亡くなり、理由あってその経営を引き継いだ

元編集者の青年の物語。

大手出版社の編集員だった宮本章は、担当していた新人作家・広川蒼汰の作品を

力不足で書籍化出来なかったことで、責任を感じ、失意のままに会社を去った。

この先どうするか考えあぐねていたところ、突然北海道で一人書店を営んでいた

祖父が亡くなり、忙しい両親に代わって店じまいを買って出ることに。しかし、

祖父の営んでいたミュゲ書房は、地域密着型で地元の人に親しまれており、

多くの人から存続を望まれていた。更に、そのタイミングで市内唯一の大型書店も

撤退するとのニュースが飛び込み、市長から直々に祖父の店の存続を頼まれた章は、

引き継ぐことを決意する。章は、慣れない書店の仕事に戸惑いながらも、膨大な

本の知識を持つ女子高生の桃や、ミュゲ書房で不定期にカフェを開いていた大学生

の池田、書店の庭を手入れしてくれていた菅沼など、生前の祖父との関わりが

強かった常連客たちの協力のもと、少しづつ仕事に慣れて行くのだった。また、

一方で、元編集者の知識を買われて、章の元にはふたつの書籍の編集の仕事も

舞い込む。編集の仕事はやりがいがあったものの、章の中ではデビュー作

を出版させてあげられなかった広川蒼汰のことが深く心にのしかかっていた――。

うん。面白かったです。これは、本好きさんの心をくすぐる作品ですねぇ。

まず、ミュゲ書房自体の設定がとても素敵。大正時代の洋館を改装した内装は

クラシカルだし、本に拘りのあった章の祖父が作っていた棚は、その人柄が

反映されているようで、本好き心をくすぐる選書になっているし(とはいえ、

私自身は書店の棚の選書なんて特に注目していないので、どこがどう拘っている

のかとかは全然気づけないと思うけれど^^;)。

カフェが(不定期とはいえ)併設されていたり、美しいお庭があったりするところも

素敵ですよねぇ。無垢材の床に漆喰の壁に、窓はステンドガラス。隠れ家のような

『塔の部屋』があったりするところも、子供だったらワクワクするでしょうし。

もう、建物自体が芸術品みたいで、いるだけで癒やされそうだと思いました。

ミュゲ書房の復活に協力してくれる常連客のキャラも、それぞれに良い人ばかり

でした。もし、私が常連客でも、こういう書店が無くなるっていうのは、本当に

ショックを受けると思いますね。子供の頃から本屋が大好きだった私は、今現在に

至るまでに市内の本屋の閉店をいくつ見て来たことか。小学生の頃から慣れ親しんで

来た最寄り駅の啓○堂が去年ついに閉店したことを知ったときは寂しかった・・・。

最近はたまに駅の方に行ったときに立ち寄るくらいだったとはいえ、ね(ちなみに、

私は生まれてから結婚して今に至るまで、同じ市に住んでいます)。だから、

ミュゲ書房の常連客たちがなんとか章を手助けしてミュゲ書房を存続させようとする

気持ちはすごく共感できましたね。

ただ、広川蒼汰の正体は、物語の早い段階で当たりがつけられてしまいました。

終盤の展開も、似たようなお話を結構読んでいるので、なんとなく先が読めちゃう

ところはありましたね。偶然に頼りすぎな感じも否めず、ちょっと展開が安易で、

ご都合主義的に感じてしまうところも。市長と副市長の書籍を章が編集するくだりは

独自性があって面白かったので、広川蒼汰の部分ももうちょっと、既存の書店もの

とは違った展開が欲しかった気がします。ストーリーをまとめるには、こうする

のが一番破綻がなくて良いのでしょうけどね・・・。広川蒼汰の本をミュゲ書房から

出版しようとした矢先に、章がもといた出版社が横槍を入れて来たところも、

やっぱりそうなるか・・・と想像した通りだったので。まぁ、その後の展開は

予定調和とはいえ、スカッとしましたけどね。章が、元上司だった編集長に

一矢報いたところは痛快でしたね。広川蒼汰の決断に、快哉を叫びたくなりました。

地方の書店が起こした奇跡、こういうのが現実にもたくさんあるといいなと思う。

沈みかけた書店業界がまた盛り返してくれる日が来ることを、いつも願っています。

文章も読みやすかったし、読めて良かったです。紹介して下さったお二方に

改めて感謝します。お二人の後押しがなければ知らない作品でした。良い本を

紹介して頂き、ありがとうございました。

 

余談ですが、読み終えて読書メータ―に読了記録して、他の方の感想を何気なく

読んでいたら、全部のコメント(多分)に作者の伊藤さんが返信をしていらっ

しゃって、びっくりしました。私も感想登録したら返信もらえたかなぁ(笑)。

でも、作者の方に自分のへなちょこコメントを読んでもらうような勇気はない

のでした・・・(ヘタレ)。

でも、まめでご丁寧な方なんだなぁと好感度倍増しでした(笑)。