瀬尾さん最新作。瑞々しさ全開で、安定の瀬尾さんワールド。派手な展開は一切
出てこないけど、じわじわと心に優しさが満たされるような、素敵な作品でした。
二作の中編と、国語の教科書に掲載されたという掌編一篇が収録されています。
どれも良かったなぁ。
一作目の『夏の体温』は、血小板の数値が低いことで、一ヶ月以上病院に経過観察
入院している小学三年生の瑛介が主人公。瑛介が入院しているのは、低身長検査
の子供たちが検査入院する病棟で、彼らはみんな二泊三日で帰って行く。しかも、
自分よりみんな年下の小さい子ばかりだ。毎日退屈で、鬱屈がたまって行く一方
だった瑛介だったが、ある日、同学年の壮汰が低身長検査で入院して来て、瑛介
の退屈な日々が一変することに――。
長期間の入院で心がささくれていた瑛介が出会ったのは、低身長検査でやってきた
同い年の壮太。たった二泊三日しか一緒にいられないけど、瑛介にとっては
久しぶりに友達と思いっきり遊べるまたとない機会。自分の症状を理解していて、
小学生にしてはかなり大人びた性格の瑛介だけど、人懐っこくて底抜けに明るい
壮太と出会ったことで、一気に子供らしさを取り戻した感じがして、微笑まし
かったです。二人が元気いっぱいに遊ぶシーンは、二人の生き生きとした描写が
輝いていて、愛おしい。場所が病院ということを思い出さなければ。二人が仲良く
なればなるほど、二泊三日で帰ってしまう壮汰がいなくなった後の瑛介のことが
心配になりました。自分だけが取り残されて行く寂しさ、やるせなさ。小学三年生
の少年に背負わせるには、あまりにも重い感情。もちろん、もっともっと重い病気
で入院している子はたくさんいます。瑛介も、そういう子たちと自分を比べて、
自分はまだそういう子たちに比べれば恵まれている、と考えようとする子です。
でも、小学三年生で、そういう風に考えて自分の置かれている環境を納得させ
なきゃいけないこと自体に胸が痛みました。だからこそ、壮汰との出会いが尊い
ものに感じられました。瑛介の中で、壮汰といられる時間をカウントダウンして
行くところが切なかったなぁ。能天気に見えた壮太が、瑛介の心の闇を知っていて、
密かに自分がいなくなった後の瑛介の為にしてくれたことを知って、胸がいっぱいに
なりました。子供は子供なりに、いろんなことを察する能力に長けているものなん
ですよね。特に、壮太自身も、低身長で周りから何度も傷つけられて来た経験が
あるのでしょうから。瑛介に宛てた手紙にもぐっと来ました。同封してあったモノ
に関しては、ズッコケましたけど・・・自分だったらドン引きだよ!^^;でも、
壮太らしくていいな、とクスリとしました。瑛介が退院してからも、二人の交流が
続くといいな、と思いました。これが縁で、二人してお笑い芸人への道を・・・
とかだったら面白いけれどね(笑)。
二作目の『魅惑の極楽人ファイル』も大好きだった。内向的でぼっち体質の大学生、
大原早智は、大学1年の時文学賞を受賞してデビューした若手小説家。しかし、
三作目の執筆中、ダメ出しが繰り返され、担当編集者に出て来る登場人物に悪人が
いないためリアリティに欠けることが原因だと指摘される。そこで早智は、悪人を
書く為、学内で腹黒いと言われる男子大学生、倉橋に取材を試みることに。
早智と『悪人』倉橋のズレた会話が読んでいてとても面白かった。早智の取材に
いちいち丁寧に答えてくれる倉橋が、なぜ腹黒いなどと呼ばれているのか。倉橋
の人となりや、その理由を知って、どんどん倉橋というキャラに惹かれて行きました。
倉橋、知れば知るほど悪人キャラとかけ離れて行く(笑)。早智の倉橋評も、取材を
続けて行くうちにどんどん変わって行くところが面白かった。
早智というキャラクター自身も、なかなか他にいない独特のキャラで良かったです。
二人の間に少しづつ友情が芽生えて行くところも読んでいて心地良くて。さすが
瀬尾さんってお話だったなぁ。倉橋の高校時代のことを知った早智が、倉橋に
変わって借りたマンガを返しに行くところは、早智の行動力に感心しましたし、
倉橋の為に怒ってあげる早智がかっこいいと思いました。男女の仲を超えた友情を
描くのが、瀬尾さんはやっぱり上手いなぁ。恋愛感情がなくても、きっと二人の
繋がりは今後も続いて行くんだろうな、と思えました。
残念だったのは、倉橋の高校の後輩・桧木が倉橋とやり取りしていたノートに
新たに書き加えた内容が明かされなかったところ。きっと倉橋への感謝の思いや
謝罪の言葉が書かれてあったのだろうけれども。
早智が倉橋に作らせたお手製キャラメル美味しそうだったな。手作りキャラメルは
前に作ったことあって、自分で作ると美味しいのよね。でも、実際のキャラメルを
使って作ったことはないので、面白そうだな、と思いました。機会があれば
やってみたいけれど、まずキャラメル自体を買うことがないから、永遠に機会は
ないかもしれないw
最後の掌編『花曇りの向こう』は、国語の教科書に載ったということで、ちょっと
びっくり。瀬尾さんの物語がついに教科書に!どんな授業になるのか、ちょっと
聞いてみたくなりました(笑)。
中学校に上がって、なかなか友達が出来ない主人公の明生は、毎朝話しかけてくれる
隣の席の川口君とも上手くしゃべれない。そんな川口君と、ある日駄菓子屋で
出会って・・・というお話。不器用な主人公が、友達をつくるきっかけを描いた
掌編。私も友達作るのとか苦手だから、明生の同級生に対するぎこちない態度
とかは共感出来たな。でも、踏み出すその一歩が大事なんだよね。