ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

近藤史恵「シャルロットのアルバイト」(光文社)

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元警察犬で、雌のジャーマンシェパードのシャルロットが活躍する『シャルロットの

憂鬱』の続編。大好きな作品だったので、続編が出てとても嬉しかったです。今回も、

なんといっても、シャルロットがお利口さんで、愛くるしかった。

犬にまつわる物語ばかりを集めた短編集。出て来る犬たちはみんな可愛らしい

けれども、その背後に潜むのは人間の悪意やエゴ。ほのぼのばかりではなく、ちょっと

ほろ苦い作品集になっております。巷に溢れる身勝手な飼い主たちに警鐘を鳴らす

作品でもあるのでしょうね。

では、一作づつ感想を。

 

『シャルロットと迷子の王子』

迷子のトイプードルを真澄(主人公)夫婦が保護するお話。自分より小さなトイプー

に戸惑いながらも、面倒を見ようとするシャルロットが可愛い。トイプーの

飼い主の身勝手さには呆れました。こんな人間に育てられるペットがただただ

可哀想だ。一緒に暮らすことになった後が心配だなぁ・・・。

 

『シャルロットと謎のお向かいさん』

真澄と浩輔の向かいに、感じのいい家族が引っ越して来た。しかし、挨拶の時には

いなかった家族がいるらしい。夫婦はなぜその人物の存在を隠しているのか?

きょうだい間の格差って、きっとどこの家にも大なり小なりあるものなんじゃ

ないのかな。でも、この家族に関しては、相手の為を思って隠して来たことが

裏目に出ちゃっただけで、ちゃんと向き合えば良い家族になれると思う。ゾンビ犬

の真相には、なんとも言えない痛々しい気持ちになりました。

 

『シャルロットと紛失した迷子札』

犬も泊まれるペンションに行くことになったシャルロットと真澄夫婦。

シャルロットが、旅行に行くことを察してうきうきしている様子が微笑ましかった。

迷子札に関しては、盗んだ人物よりも、諸悪の根源の男二人の方に腹が立ちましたね。

ナンパ目的でこういうペンションに泊まるとか、どんだけゲスい人間なのやら。

 

『シャルロットのアルバイト』

ドッグスクールで子犬たちの面倒を見るアルバイトをすることになったシャルロット。

楽しく子犬たちと触れ合う姿を見て微笑ましく思う真澄だったが、そのドッグスクール

の嫌な噂を耳にして――。

子犬たちとじゃれるシャルロットがたまらんかったです。悪意ってのは、どこにでも

ついてまわるんですね・・・。そして、その原因となった元オーナーの言動には

怒りしか覚えなかったです。

 

『天使で悪魔とシャルロット』

浩輔が、会社の人から頼まれてラブラドールとスタンダードプードルのミックスの

子犬を預かって来た。天使で悪魔な三ヶ月児を前に、真澄夫妻もシャルロットも

振り回されっぱなしに――。

ラブラドゥードゥルという種類がいるんですね。どんなお顔なんだろう~。

でも、この子の家族には、真澄同様、あまり好感持てなかったです。母親を何だと

思っているのか。男三人が固まると、こうなっちゃうのかな。彼らが、母親の

鬱屈に気づく日は来るのでしょうか。

 

『家族』

浩輔がかねてからの念願だったシンガポールへの転勤を断ったらしい。なぜ、

そんな重要なことを相談もなしに決めてしまったのか。

なんだかんだで、この夫婦はお互いのことを本当に想い合っているのが伝わって

来ました。そして、何よりシャルロットを大事に思っていることも。浩輔が

転勤を断った理由には、深く納得出来るものがありました。そんな日が来ることが

怖いとも思うけれど。ペットを飼う人はみんな、きっとこういう気持ちを抱えて

いるんだろうな、と思わされました。きっとそれが飼い主の責任なんだと思う。

 

悪意のあるほろ苦いお話ばかりだけれど、そんな中でもシャルロットがいることで、

ほんわかした気持ちになれました。真澄も浩輔も、本当にいい飼い主だと思う。

シャルロットがいい子なのは、飼い主がちゃんとしてるからなんでしょう。

もちろん、ベースに警察犬だったことは大きいと思うけど。引退しても穏やかな

性格のままでいられるのは、真澄たちの功績が大きいと思うな。シャルロットが

幸せで良かったよ。