ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

一穂ミチ「砂嵐に星屑」(幻冬舎)

テレビ局を舞台に繰り広げられる春夏秋冬、4つの物語集。

一作目の『<春>資料室の幽霊』は、社内不倫の末、東京から大阪に異動になった

四十代の女子アナウンサー邑子の物語。異動で古巣の大阪に戻って来たが、社内

では腫れ物扱いで居心地が悪い。すると、社内の資料室で亡くなった元彼の幽霊が

出るという噂を聞いて――。

幽霊の噂っていっても、大抵何かの見間違いとか誤解だったりするんだろうな、と

思っていたら、本当に幽霊が出て来たから面食らわされました。邑子のキャラは

嫌いじゃないけど、不倫をした時点で周りから何を言われても仕方がないな、と

思いました。新人の後輩・雪乃のキャラは好きだったな。邑子と雪乃の関係も。

二話目の『<夏>泥船のモラトリアム』は、二年前から娘との関係がこじれ、同期が

次々と早期退職して行くことに焦り、悩む五十代の報道デスク、中島の物語。

地震で鉄道がストップしたことで通勤手段がなくなり、職場まで三時間かけて

歩くシーンは、東日本大震災の時を思い出しました。まぁ、私自身は電車通勤

ではないのでそういう経験はしていないのですが、都心に通勤する人が同じように

歩いて帰ったとか出勤したという体験談をたくさん耳にしたので。周りがどんどん

辞めて行って、ひとり取り残されて行くように感じて、焦る気持ちは理解

できました。こういう華やかな世界の裏側はハードだろうから、離職率も高い

ものなのかな。ラスト、こじれていた娘との関係が修復出来てほっとしました。

三話目の『<秋>嵐のランデブー』は、片想いの相手と同居しているが、相手が

ゲイで自分のことを恋愛対象として見てもらえない20代のTK(タイムキーパー)、

結花の物語。こんな不毛な同居をよくする気になったなぁ。似たようなドラマが

最近あったような(片想いの相手の想い人は同性じゃなかったけど^^;)。

しかし、結花の片想い相手の想い人は最低のヤツでしたねぇ。いきなり結花のことを

『くるみちゃん』と読んだ時は意味がわからなかったのだけど、理由を知って納得。

そして、気持ち悪いとしか思えなかった。でも、そんな相手と寝てしまう結花の

行動にもげんなり。自暴自棄になってあてつけたのはわかるけど、私だったら

生理的に無理だなぁと思いました。

四話目の『<冬>眠れぬ夜のあなた』は、やる気も向上心もない三十代の非正規AD、

晴一の物語。密着取材相手の芸人・並木の壮絶な過去には驚きました。小道具の人形

を『相棒』といって、人間のように接する理由を知って、そういうことだったのか、

と胸がつまりました。なんとなく今の仕事を続けているだけの晴一が、並木との

交流を通じて、向上心が少し芽生えたように思えたところが良かったです。

 

華やかなテレビ業界ですが、裏ではそれぞれに悩みも鬱屈も抱えているんですね。

どの世代の人間にも、その世代なりの悩みがあるものなんだな、と思わされました。

できれば、二十代の話は、結花じゃなくて雪乃の話が良かったなぁ。雪乃の内面を

もっと知りたいなと思っていたので。そこがちょっと残念だったかな。