ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

宮部みゆき「さよならの儀式」(河出書房新社)

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宮部さん最新作。現代ものの長編かと思って楽しみにしてたんですが、
読み始めてみたら短編集で、しかもSFばかりを集めた作品集でした。ファンタジー
でもミステリーでもホラーでも時代ものでもない、SFとは。そういえば、初期の頃の
宮部作品は結構SF風のものが多かったことを思い出しました。ただ、
私個人でいえば、SFは正直苦手分野。9作収録されているのですが、
とっつきにくいと感じる作品の方が多かったかも。私は、宮部さんはやっぱり
現代ミステリーものが一番好きだな~^^;

一応、各作品の感想を。

『母の法律』
長編だと思いこんで読み始めたので、ラストまで読んでも、ひどい母親
だなぁくらいで、まだ物語は続くと思ってたんですよね。ほんとに、これが
言いたいが為の作品だったとは。虐待された子供にこういう救済措置が
あったら、救われる子供たちはいっぱいいるのかも。いろいろ弊害もありそうだな、
とも思いましたけれど。二葉の実の母親に関しては、やっぱり虐待するような
母親は最後までろくでもない人間でしかないんだな、と憤りを覚えました。

『戦闘員』
意思を持つ防犯カメラに狙われたら。こんなものの標的になったら怖すぎる。
防犯カメラの正体がよくわからないのがまた怖かった。達三と少年が戦闘員として
カメラに立ち向かうところまで読んでみたかったな、と思いました。

『わたしとワタシ』
十五歳の自分が、四十五歳の自分と会って、結婚もしないまま老けて、しみだらけの
冴えないおばさんになっているのがわかってしまったら。そりゃ、人生に絶望する
だろうなぁと思いますね。十五歳なんていえば、結婚に夢見てる年頃でしょうし。
でも、四十五歳の私はそれでそれなりに幸せに暮らしている訳で。実際、こういう
三十代や四十代の人間って結構多いんじゃないかな、と思いました。特に何も
変化が起きないタイムスリップものっていうのも珍しいな、と思いました。

『さよならの儀式』
不具合が起きて使えなくなったロボットに情が移ってしまう女性と、そのロボット
を回収する業者に勤める青年の話。ロボットへの愛情から感情的になる女性と、
どこまでも冷徹に業務を進めようとする青年が対照的でした。私もものに名前
をつけたりすると愛着が湧いてしまうタイプなので、女性側の気持ちの方に
共感を覚えたかな。ただ、そんなにこの女性も好感持てるタイプでもなかった
ですけど。

『星に願いを』
宇宙人に寄生されてしまった妹と自宅にいたら、逃亡中の殺人犯が血まみれで
庭に倒れていた。結構むちゃくちゃなストーリーで、どうなるのか先が
読めなかったです。緊迫した展開に息を飲みましたが、ラストでなるほど、
こういうオチか、と納得。その後どうなったのかちょっと気になりました。

『聖痕』
親からの虐待に耐えられず、自衛手段として母親と内縁の夫を殺害した
少年。彼が、同じように虐待を受ける少年少女たちにとっての救世主
として扱われ、ネットで拡散されて行く様子は、リアルでした。
鉄槌のユダの正体には驚かされました。終盤の展開はちょっとついて行けなかった
なぁ。鉄槌のユダの狂気に空恐ろしいものを感じました。

『海神の裔』
海の向こうから来た屍人を迎えいれた村の話。伊藤計劃さんと円城塔さんの
屍者の帝国』の世界観で書かれた物語だそう。『屍者~』を読んでいたら
もうちょっと楽しめたのかも。要するにゾンビの話ですよね、これ。

『保安官の明日』
これも『海神~』と同じテーマと云えそうです。世界観は全く違いますけど。
自分の息子の為に、こんな設備を作って、しかもそれを延々繰り返している
ことに驚きます。単なる親のエゴじゃないのかな。付き合わされる方も
たまったものじゃないと思いますが。いつかこの虚しい世界に終わりの日が
来ることがあるんでしょうか。