万城目さん最新作。久しぶりに京都を舞台にした青春小説が二作収録されています。
どちらもスポーツを題材にしてまして、一作目は女子駅伝、二作目は野球。
どちらにもちょっぴり不思議な現象が出て来るので、万城目さんらしい少し
風変わりなスポーツ小説になっていると思います。
一作目の『十二月の都大路上下ル』は、一年生ながら、『全国高校駅伝』に
出場することになった女子高生・坂東(サカトゥー)のお話。まさか補欠の自分が、
先輩たちを差し置いて走ることになるとはつゆとも思わない坂東は、突然翌日
のレースのアンカーを指名されて面くらいます。陸上部の顧問や先輩から説得されて
走る覚悟を決めた坂東でしたが、彼女には致命的なある弱点があり――というお話。
坂東の弱点、他人から見ると『あり得ない』と思われるかもしれないけれど、
個人的には同じ弱点持ってる人間なので、「わかる―――!」と思っちゃいました。
なんで、そっち!?って方に、ついつい進んで行っちゃうんですよねぇ・・・。
その上、走っている時にあんなモノが並走していたら、そっちに気が行っちゃって、
当たり前の判断が出来なくなっても不思議はない。うんうん。ライバル校の新垣
さんが、意外といい人なのがわかって良かった。レース中は怖い人なのかな?と
思っていたので。主人公のサカトゥーのキャラも良かったですね。屈託がなくて。
誰からも可愛がられるタイプだろうなぁ。それにしても、レース中に現れたアレ
の正体には面食らわされました。そんなに走りたがる人たちとは思えないけどなぁ。
まぁ、こういう場面で、こういう人たちを登場させちゃうところが、万城目ワールド
ってやつなんだろうな、とは思いましたけどね。
二作目となる表題作の『八月の御所グラウンド』は、突然彼女にフラれ、夏休み
の予定が何もなくなった大学生の朽木が、友人の多聞に誘われ、早朝に行われる
野球大会に参加することになる話。
もともと野球はあまり興味のない人間だったんですが、ここ数年の大谷選手の
目覚ましい活躍はやはり同じ日本人として誇らしく、毎朝彼の試合をチェック
したりして野球にも親しんでいたところだったので、割合楽しく読むことが
出来ました。ルールもちょっとわかって来たところだったしね(それまで、
野球のルールというものをほとんど知らなかった^^;)。寄せ集めチーム
だけど、なんだかんだで一試合一試合勝ち進んで行くところに心躍りました。
特に、中国人留学生のシャオさんのキャラクターが効いてましたね~。紅一点で
野球のルールなんか何も知らないのに、ここぞというところで活躍しちゃうという。
朽木といい雰囲気になったりしないかな?と思ったりもしてたんですが、最後
思わぬ伏兵が出て来て撃沈。なんか、不思議なキャラクターだったなぁ。朽木
から烈女とか言われてたしね(笑)。
思わぬ伏兵といえば、欠員が出た時に突如参加してくれることになったえーちゃん、
山下君、遠藤君の正体。若くして野球が出来なくなってしまったことが心残りで、
野球がやりたくなっちゃったんだろうなぁ。彼らの身の上に、やりきれない
気持ちばかりが湧き上がりました。きっともっとたくさん野球やりたかったんだ
ろうな・・・。
京都御所の跡地が、こんな風に誰でも使えるグラウンドになっているとは驚き
ました。確かに、こういう地にいたら、いろんな不思議な現象に遭っても
おかしくなさそう・・・という気にはなりましたね。しかも終戦記念日やお盆
のある八月という特殊な月ですし。五山の送り火の風景といい、京都ならでは
の場面も散りばめられ、万城目さんらしい一作だと思いました。どこか寂しく、
どこかほのかに温かいような、不思議な読み心地の作品でしたね。