ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

下村敦史「逆転正義」(幻冬舎)

下村さん最新刊。王様のブランチで紹介されていて、これは面白そう!と早々に

予約してありました。ブランチで紹介されちゃったから予約すごそうだよなぁと

思ってたけど、思ったよりは早く回って来て良かったです。

うん、面白かった!正しいと思ったことが最後にひっくり返される爽快感。後味

悪いものもあるけど、それよりも自分の思い込みを覆される驚きの方が強かったかな。

気持ちよく騙された作品が多かった。読みやすいからほぼ一日で読んじゃったし。

最近、頭使って理解しないといけない作品だと、読んでてすぐに疲れちゃうん

ですよね。年かなぁ・・・。

 

では、各作品の感想を。

『見て見ぬふり』

教室で行われているいじめ。みんな見て見ぬふりをしている。でも、僕は勇気を

出して担任に伝えに行った。でも、担任は何もしてくれなくて――。

正義感からいじめを辞めさせようと行動したことが、とんでもない結果に繋がって

しまう。見て見ぬふりをするべきだったのか。これは難しい問題ですよね・・・。

自分だったらどうするだろう、と考えると、主人公の立場に立ったら、彼と同じ

行動が出来るかは自信がないかも。いじめに加担することだけはしないと断言

出来るけれど。でも、SNSはやり過ぎでしたね。

 

『保護』

雨の中、コンビニの前で傘も差さずに立ち尽くすセーラー服の彼女を見て、僕は

つい声をかけてしまった。彼女は僕の部屋について来て――。

いやー、これは完全に騙されました。まさかの反転に目が点。あとから読み返すと、

巧妙に伏線が張られていることがわかる。確かに、気になる描写はあったの

ですけれどね。脱帽でした。

 

『完黙』

麻薬の売人をしてる大重は、今日も繁華街の路地裏で客と取り引きしていた。

だが、女や未成年には売らない。売って欲しいと高校生がやってきたが、断った。

しかし、後日警察がやってきて――。

警察に捕まった大重が、徹底して完黙(完全黙秘)を貫いた理由には驚かされ

ました。そういう背景があったのか!と思いましたね。しかも警察に捕まった時に

密告したのもまさかの人物でした。ラストは別れた妻の真意が知れて、少し救われた

気持ちになりましたね。

 

『ストーカー』

ストーカーに狙われていた美里は、ついにこの手で殺人を犯してしまった。血まみれ

の両手を洗面所で洗っている時、チャイムが鳴り、彼が来た。なぜこのタイミングで。

なんとかして、彼を帰さなければならない――。

これも完全にミスリードさせられていたなぁ。やって来た『彼』のことはすぐに

予測がついたのですが、殺された『祐介』に関しては、完全に騙されてました。

祐介を殺った凶器がわかった時、「は?」と一瞬意味がわからなくてぽかーんと

しちゃいました。意味がわかってああ、そういうことか!と目からウロコが。巧い!

ストーカーのアイツにはただただ嫌悪しか覚えなかったです。でも、ラストは少し

救いがあって良かった。

 

『罪の相続』

突然何者かにスタンガンで気絶させられ、廃工場に監禁された曽我部。なぜ、

息子を亡くしたばかりの自分が、こんな目に遭わなければならないのか。犯人からは、

『これは罪の相続だ』と言われ――。

祖父の罪をなぜその子孫が受けねばならないのか。犯人の思考回路はめちゃくちゃ

だな、と呆れました。子供の頃から、こういう思考を親から植え付けられると、

やっぱり子供の考え方にも影響するんだな、とそら恐ろしくなりました。子供の

将来も心配です・・・どんな大人になってしまうのか・・・。

 

『死は朝、羽ばたく』

札幌刑務所から出たばかりの奥村は、殺人の十字架を背負って生きる決意をして

いた。そんな時、三人組の少年から声をかけられ、金をせびられた。無視していると、

三人組はしつこく奥村を追いかけて来て――。

これも巧いですねぇ。奥村の罪に関しては、同じようなテーマの作品を少し前に

読んだばかりだったので、改めてそのことについて考えさせられました。奥村を

ターゲットにしたチンピラ三人があまりにしつこく追いかけ回すので、ムカムカ

イライラしながら読んでいたので、ラストの展開には胸がすく思いがしました。

奥村自身の鬱屈も、最後のシーンで少し晴れていれば良いと思う。この少年も

一生重いものを抱えて生きなきゃいけないのだろうけれど、『罪の相続』なんて

ことは考えず、生きて行ってほしいと思う。