ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

町田そのこ「夜明けのはざま」(ポプラ社)

町田さん最新作。地方の家族葬専門の葬儀社『芥子実庵』を舞台にした連作短編集。

町田さんって、こういう生と死を扱ったテーマを描くのがお好きですよね。今まで

読んだ限り、ほとんどの登場人物が『大切な人を失った』人ばかりという気がする。

今回もその例に漏れず。何せ、舞台が葬儀会社ですから。みんな、大事な人を

失っている。その死によって、残された人がどう考え、今後どう行きて行くのか、

をテーマにしている分、内容は重め。誰しもが死というものに向き合わなければ

いけない瞬間があるのは間違いない訳で、いろんなことを読者に感じさせる作品

だと思います。昨日まで元気だった人が、いなくなってしまう喪失感や、やりきれ

なさに伴う後悔。大事な人を失った時、それをどう乗り越えて行くのか。親友を

失った葬祭ディレクター、元夫の恋人の葬儀の花祭壇を作ることになった花屋、

かつていじめられた同級生の親の葬儀を担当することになった新入社員、元恋人

の突然の死を知らされたが、束縛の強い夫から葬儀の出席を止められた主婦。

そして、ラスト一作は一話目の主人公が再び登場します。どのお話も、出て来る

脇役キャラに必ず悪意のある人物がいるので、毎回めちゃくちゃムカムカさせられ

ながら読んでました。世の中、こんなに嫌な人間だらけなの?と若干人間不信に

なりそうでした・・・。ただ、一話目と最終話の主人公・真奈の家族(母親と姉)

に関しては、一話目と最終話では大分印象が変わりましたけどね(一話目では、

単なる毒親・毒姉だとしか思えなかった^^;)。今彼があれほど真奈の仕事を

嫌がっていた理由も最終話ではわかりましたし。その人の事情を知ることで、

多少見る目が変わる場合もありました。ただ、大部分は最初の嫌な印象の

ままでしたけどね(真奈の友達・楓子の夫とか義母なんかは最後まで最悪の印象の

ままだった)。真奈の仕事に対する真摯な姿勢は、とても尊敬できるものでした。

それを理解できない彼氏の言動は許しがたいものだったので、二人が最後に

ああいう結論を出したのは、当然の帰結だったのかなと思いましたね。彼氏の

お姉さんがまともま考えの人だったので、もしかしたら弟を説得して、上手く行く

道もあるかもな、と途中では思ったのだけど・・・。

真奈の周囲の人間の、葬儀社で働くということに対する理解のなさに、何度もげんなり

させられました。こういう仕事に就いてくれる人たちがいるから、自分の身内が

亡くなった時にちゃんと見送ってあげられるというのに。なぜ、あんなに見下した

態度が取れるのか、まったく理解不能でした。とても神聖で、大事な職業だと思うの

ですが。昔、友人の親族が亡くなられた時、手伝いを頼まれたことがあり、受付

を担当したことがあります。その時、葬儀会社の従業員の方々の働きを間近で見て、

尊敬の念を抱くことはあっても、見下そうなんて気持ちには全くなれなかった。

みなさん、故人に敬意を払って、神聖な気持ちで参列者が見送れるよう、手を

尽くしておられるのがわかりましたから。

この作品には、価値観の違いがたくさん出て来ます。なぜ自分の考えが理解して

もらえないのか、自分の仕事を理解してもらえないのか。根本的な考え方が

違うと、どれだけ相手に説明しても、わかり合えないんだな、というのがよく

わかって、忸怩たる思いがしました。まぁ、そういう人間とは、考え方が違うと

諦めて、付き合わないのが一番なんでしょうけど・・・それが、親族だったり

配偶者だったりする場合があるから、悲劇なんですよねー・・・。どうしたって、

簡単に切り捨てられるものではないですからね。楓子のケースが一番気の毒だった

かな。親友が亡くなったのに、夫や義母から故人を非難するような罵詈雑言が

飛び出して。ほんと、人間の心があるのか、と言ってやりたくなりましたね。

でも、最後に楓子が下した決断に快哉を叫びたくなりました。よし、よく決意した!

って感じ。目標までの障害は多そうですけど・・・。

二話目の主人公・千和子のケースもイラッとさせられましたけどね。自分と娘を

捨てて逃げたくせに、今さら千和子を頼る元夫にも、何の相談もなしに大学を

辞めて家を出て彼氏を支えると言い放って、やりたい放題の娘にも。母親がどれだけ

苦労して一人娘を育てて来たのか、全くわかってなくて。でも、終盤で、娘が元夫に

対して千和子の為に啖呵を切ったシーンはスカッとしました。なんだ、ほんとは

いい娘なんじゃん、とほっとしましたね。

共感を覚えるところもなくはないけど、それよりも反発を覚えるシーンが多くて、

感情の振り幅がすごかったな。町田さんの作品は、いつもこんな感じ。作品への

没入感があるって意味では、すごい作家だなぁと思いますけどね。

ただ、さすがに毎回このテーマだと、若干食傷気味になって来た感じはあるかなぁ。

『死』を扱うと、それだけで重みのある作品になるのはわかるのだけど・・・

毎回、誰かが死ぬ作品じゃなくてもいいのに、って気持ちにはなるかな。

読み応えのある、良い作品なのは間違いないのだけどね。

次は、もう少し明るめのテーマのものも読んでみたいかな。