ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

「おひとりさま日和」(双葉文庫)

奇しくも、女性作家だけのアンソロジー二連発となりました。こちらは、『おひとり

さま生活』をテーマにした六人の女性作家によるアンソロジー。なんだか、身に

つまされるようなお話が多かったなぁ。今は相方がいるけど、自分が残された

場合、確実に『おひとりさま』になることは確定する訳で。その時には親は

もういないだろうし、子供もいないし。そうなった時、ひとりでどうやって

生きて行くのか?というテーマは、かなり自分にとって重要なものであるので。

寄稿作家がかなりアミの会のアンソロジーと被ってるなぁと思いましたね。女性

作家しばりだったせいかしらん。

いろんなおひとりさまの生き方が描かれていて、読み応えありました。

 

では、各作品の感想を。

大崎梢『リクと暮せば』

ひとりで一軒家に暮らす女子校時代の友達、順子の家に不審者が侵入したという話

を聞いた八十四歳の照子は、同じように一軒家で一人暮らしをする自分の身も

心配になった。

そこで、知り合いからレンタル番犬の話を聞いた照子は、リクヴェルという

シェパード犬を借り受けることになるのだが――。

番犬をレンタルできるサービスとは、また面白いアイデアだなぁと思いました。

実際あるのかな??でも、リクのように訓練された犬なら、需要はありそう。

足腰が弱った一人暮らしの老人なんて、いくらでもいそうですもん。ただ、

月10万超えは高いなぁ。でも、自分の犬として迎え入れるには年を取りすぎて

無理だしね。照子にとって、リクは今後も頼もしい相棒になってくれそうですね。

 

岸本葉子『幸せの黄色いペンダント』

六十代でマンションに一人暮らしのナツの趣味は、料理とフィギュアスケート

テレビ観戦だ。イギリスのリウという十八歳の選手を贔屓にしている。そんな

ナツの首には、黄色のペンダントがかかっている。これは、緊急通報用のペンダント

で、名付けて『幸せお守りペンダント』という。月額料金がかかるが、一人暮らし

のナツは、マンションの管理会社からこのペンダントのキャンペーンチラシが

入って来た時、迷わず申し込んだ。ある日、同じマンションに住むフィギュア愛好

仲間のカズヨが、突然電話してきて、このペンダントを貸してほしいと言って

来て――。

こちらのサービスも、年取ったおひとりさま暮らしの人間にはありがたいもの

でしょうね。これからの高齢化社会には、この手のサービスで進化したものが

どんどん出て来るのかも。しかし、いきなり電話してきてこのペンダントを貸して

と言って来たカズヨの図々しさには呆れました。自分で金払って申し込めよ、と

ツッコミたくなりましたね。しかも理由が理由だったし。年取っても、こういう面で

盛んな人っているんですよねぇ。女はいくつになっても女なんでしょうね。

 

坂井希久子『永遠語り』

草木染め作家の十和子は、東京都唯一の村にある山の中の古民家にひとりで

ひっそりと住んでいる。叔父が亡くなるまでは、ふたりで住んでいた。叔父の

技術を継ぎ、草木染作家になった十和子は、今では恋人と遠距離恋愛をしながら

山での生活に馴染んでいた。今の生活に不満はない。しかし、恋人から別れ話

を切り出されて――。

静かで、独特の空気感のある作品だなぁと思いました。俗世間から離れた暮らしを

続けるヒロインの十和子も、何かを諦めたような、静謐な雰囲気のある落ち着いた

女性。その理由は、最後に明かされるのですが。やっぱり、そういうことだった

んだなぁ。亡き叔父に対する十和子の深い愛情に胸が苦しくなりました。

 

咲沢くれは『週末の夜に』

中学校教師の蓮見頼子は、ひとりで映画を観に行くのが好きだ。ある金曜日の夜、

映画を観に行くと、帰りがけに以前担当した問題児生徒の母親とばったり出会う。

頼子にとって、忘れがたい生徒のひとりだった。同じ映画を観たことで、二人の

会話は弾んだ。彼女は離婚して今はシングルだそうで、ひとり映画好き同士連絡先

を交換し合うのだが――。

私も独身時代は結構ひとりで映画行ってましたね。ひとりで美術館も行ってたし。

結構何でも一人でやっていたかも(ただし、一人旅だけは未だにやったことがない)。

頼子の別れた夫は酷い奴でしたねぇ。君はひとりでもやっていけるからって、何

勝手に決めつけちゃってんの!?って言いたくなりました。天誅が下ってれば

いいのに(怒)。

ひとり映画が好きな頼子でも、感想を言い合える人が出来たことは良かったです。

 

新津きよみ『サードライフ』

埼玉県のマンションを売って、栃木県N市の一戸建てを終の棲家として購入した

滝本夫妻。しかし、移り住んでひと月、夫の善彦は急病で亡くなってしまった。

広い一軒家に一人住む千枝子を心配した子供たちは、入れ替わりに連絡を寄越す

が、千枝子はここの暮らしが気に入っていた。ある日、ペーパードライバー

だった千枝子は、車の運転に慣れる為近場を走ってみようと試みるが、車の

トラブルで立ち往生してしまう。そこで、車で通りがかった若い男性に助けを

求めるのだが――。

娘夫婦の計算高さには辟易しました。もちろん、心配もあるんだろうけど。娘の

夫の言動にはドン引き。こんな人間たちと一緒に暮らすのは無理だよね。出てって

正解だと思いましたね。初恋の人に宛てたハガキに関しては皮肉な結末だったけど、

新たなやりがいも、気の合う仲間も見つけられて、千枝子の人生はこれから楽しく

なりそうで良かったです。

 

松村比呂美『最上階』

一人暮らしの成美は、マンションの部屋を出たところで、隣に住む宍戸さんが大きな

ダンボールを睨んでいる場面に遭遇した。ダンボールの中身は、宍戸さんの義母が

家庭菜園で育てたもので、定期的にどっさりと送られて来て迷惑なのだという。

料理好きの成美が、自分が譲り受けることを申し出ると、快諾してくれた。

とりあえずダンボールの中身を部屋に入れようと往復していると、逆隣の三萩野

さんが顔を出した。理由を話して三萩野さんにもお裾分けする旨を話すと、喜んで

くれた。二人で野菜を分けているうちに、一緒に料理をすることになり――。

この話しに出て来たようなマンション内のコミュニティ制度は、よっぽど変な人

がいない限りはありがたい制度かもしれませんね。ただ、一人でも困った人が

いると、トラブルに発展しそうですが・・・。困ったことをお互いに補い合える

のは良いことだと思いますけどね。さて、このマンションの住民たちはどうなる

でしょうかね。おひとりさまで住んでいる人は、他人と関わるのが面倒って人も

多そうですけどね。いい面悪い面ありそうだなぁと思いました。マンションの

オーナーがなかなか個性的で面白い人でしたね(映像化するなら、夏木マリさん

辺りに演じてほしい感じ)。