中野のお父さんシリーズ第4弾。今回も、文芸雑誌編集者の美希が、仕事先で
出会った本にまつわる数々の謎を、中野にいる元国語教師のお父さんに解決して
もらいます。五作が収録されています。
北村さんらしく、文芸と落語が絡んだお話が多かったですね。一話目は、夏目漱石
にまつわる謎。漱石が<アイ・ラブ・ユー>を『月がきれいですね』と訳した
という逸話は有名だが、それは本当に根拠のあることなのか?二話目は、松本
清張の『点と線』にまつわるもの。列車の時刻表を使ったトリックものだが、
飛行機について警察が考えないのはおかしい。そのことについて当時清張と対談した
誰かが、『手おくれ』と言っていたらしい。その人物とは誰なのか。三話目は、
池波正太郎が書いた落語『白波看板』を圓生が演じた際の謎。なぜか作中でベニヤ
板という文言が出て来る。その当時にはなかったはずのものをなぜ出したのか。
四話目は、久保田万太郎の文章の中に出て来る 「十二煙草入」の謎。落語で
小せんはそれを「折った」と表現している。煙草入を折るとはどういうことなのか。
五話目は、芥川の『羅生門』が漱石の本にあやかって作られた箇所があるという。
一目瞭然のその箇所とはどこなのか。
作家や文芸誌の編集者がこぞって考えても応えの出なかった五つの謎を、話を
聞いただけで鮮やかにあっさり解決してしまう美希のお父さん。相変わらず、
博識で慧眼なところに唸らされました。お父さんが、本にまつわる謎で答え
られないものはないんじゃないかって思ってしまう。しかも、ジャンルは本
だけではないし。落語にも造形が深い。まぁ、それは北村さんご自身が反映
されてるからなのでしょうけど。
有名な漱石が<アイ・ラブ・ユー>を「月がきれいですね」と訳したという
逸話に関する真実には驚かされました。曲がり曲がってそういう逸話に昇華
しちゃったんですかねぇ。某宮家のお嬢様を思い出しましたけど。お相手が漱石
にちなんでその発言したかはわかりませんけども(多分違うよね^^;)。
落語が絡んだお話は、門外漢の自分には少し理解しにくかったですね。ただ、
十二煙草入れの謎に関しては、さらっと真実を言い当てたお父さんに感服。
なるほど、そういうものだったのかーーー!!って感じ。最後に、イラストで
解説があったので、わかりやすかったですし。北村さん、よくこんなこと知って
いたなぁ・・・(すごっ)。
『点と線』に関しては、今回出て来た作品の中で唯一読んでいた作品ですが、
当時は時刻表トリックを追うだけで精一杯で、飛行機のことなんて考えたっけ
なぁ、って感じでした。何せ読んだのは高校生の時でしたからねぇ。当時は
ミステリというジャンルにもそれほどピンと来てませんでしたしね^^;でも、
今読んだら、間違いなく、飛行機で行けるかどうかをまず考えるでしょうね。
作中に出て来た、イラストレーターの和田誠さん(故人)に対する、奥さんの
平野レミさんの言葉がとっても素敵だったな。レミさん、本当に和田さんのことが
大好きだったのですよね。今でもちょくちょくお話に登場しますものね。どの
エピソードも、亡き夫への愛が溢れていて好きです。レミさんのハチャメチャな
料理(でもなぜか絶品)も大好きですけれどね。和田さんが描いた『点と線』の
イラストも、見てみたくなりましたね。
新人編集者の李花ちゃんがいい味出してましたね。素直で勉強熱心で、とっても
良い子。美希とも気が合っている様子なので、今後も良いコンビになりそうです。