ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

若竹七海「不穏な眠り」(文春文庫)

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葉村シリーズ最新作。定期的にこのシリーズの新刊が読めるなんて、本当に嬉しい。

雑誌連載されているから、コンスタントに出続けているようですね。ありがたい。

そして、今回も例に漏れず、どの作品でも理不尽な不運に見舞われる晶さん。

なんでこう、毎回満身創痍なんですかね。後解説で辻真先氏もおっしゃって

ますけど、いきなり冒頭からトンデモナイ目に遭ってる作品もありますし。

それでも、なんだかんだで事件を解決してしまうところはさすがとしか言い様が

ありません。史上最高に不運だけど、史上最強の女探偵であることは間違いない

ですね。

では、一作づつ感想を。

『水沫隠れの日々』

半年の余命宣告を受けた女性から、古本の出張買い取りを頼まれた葉村晶。指定の

マンションに赴き、査定を終えると、依頼人から今度は探偵としての仕事を頼まれる。

彼女の友人の娘が刑務所から出て来るのを迎えに行って、自分のもとまで確実に

連れて来てほしいのだという。依頼を受け、当日刑務所で娘を迎えた晶だったが、

そこから次々ととんでもない目に遭う羽目に――。

依頼人が友人の忘れ形見である娘を、余命わずかの自分の元につれて来てほしいと

言った理由は、途中からなんとなく予想がつきました。そうじゃなきゃいいな、とは

思いましたが・・・。娘の人となりがわかってくるにつれて、嫌な予感しかしなかった

んですよね~^^;若竹さんらしいブラックなオチ。

ちなみに、タイトルの『水泡隠れ』は『みなわがくれ』と読み、水面に浮かぶ泡沫が

水底にあるものを隠す、という意味なのだそう。勉強になりました。

『新春のラビリンス』

晦日の夜、つきあいのある東都総合リサーチの桜井から、解体間近の廃ビルで、

一晩警備の仕事をして欲しいと言われた葉村。そのビルは巷で呪いの幽霊ビルと

呼ばれ、バブル期に自殺したビルの元のオーナーの幽霊が出ると噂されているらしい。

高額のバイト代につられて引き受けた葉村だったが、暖房の消えた凍える部屋で

震えながら新年の一日を過ごす羽目に。仕事を終えて営業所に戻ると、女性事務員

に労いの言葉をかけられ、同時に仕事の依頼を受ける。昨日の夜から連絡が取れない

恋人を捜して欲しいのだという。彼は幽霊ビルの警備をばっくれた後から行方不明に

なっているらしいのだが――。

晶さんに調査を依頼した楓のキャラが自分勝手過ぎてイライラしました。いくら

妊娠してナーバスになっているからって、図々しすぎ。相手の男も大概しょうもない

ヤツでしたが。インフルに罹った男とさんざん接触していたにも関わらず、晶さんが

罹患しなくて良かったです。そういう所はほんと強運ですよね(苦笑)。

『逃げ出した時刻表』

自身が働く書店の店長・富山が胆嚢炎で入院してしまい、彼の代わりに様々な

雑用で駆けずり回る羽目になった葉村。その上、富山は鉄道ミステリフェアの

準備まで丸投げしてきた。その目玉は、珍本コレクターから借り受けた

神岡武一の弾丸痕つきABC時刻表だった。しかし、その時刻表が何者かに

盗まれてしまう。行方を置い始めた葉村だったが――。

冒頭から何者かに晶さんが襲われる場面で始まり、面食らわされます。いきなり

初っ端から災難に遭ってるよーー、と叫びたくなりました^^;平穏無事で

解決出来る事件はないのかい^^;

これはちょっと登場人物が多くて人間関係把握するのが大変でした。この

シリーズは結構そういうのが多いんですけどね。弾痕入りの時刻表に関しては、

ラストで皮肉なオチがついてます。まぁ、そうかな、とは思いましたけどね。

『不穏な眠り』

葉村のご近所さんで書店の常連だった鈴木夫妻の夫が亡くなった。残された妻は

房総半島の高齢者向けマンションに一人で住み始めたという。その妻の品子から、

夫の蔵書を買い取って欲しいと頼まれ、葉村が訪れることに。買取査定が終わると、

品子は葉村に、調査の依頼をしたいと告げる。品子が従妹から相続した家にいつの

間にか居座り、人知れず亡くなった女性の知人を捜して欲しいのだという。葉村は、

相続した家のある世田谷の住宅街に行き、亡くなった女性を住まわせていた今井

という男の知り合いの家を訪ねた。葉村が男の妻に話を聞いていると、突然背後から

襲いかかられて――。

これもなかなかに複雑な人間関係で混乱しました。それにしても、晶さんは

事件の度に誰かに襲いかかられているような。その上、極めつけに○○崩れ。最近の

災害列島日本の惨状を鑑みると、大雨が降ったら実際にこういう事態になるのが

現実なので、ぞっとしました。晶さんが無事でほんとに良かった。不運なのか

ラッキーなのか、ほんとに紙一重な人だなぁ。不幸中の幸いがこんなに人生で

多い人も珍しいんじゃないだろうか。ニュータウンの末路は、これから日本の

あちこちで現実問題になりそうです。災害や社会問題もしっかり現実に即して

描かれているところにリアリティがありました。

リアルタイムで晶さんも年を取っているのに、作者の彼女の扱いは常に容赦が

ないですね・・・もう少し、平穏無事な日常を過ごさせてあげてもいいのでは

とも思うけれど、この先もそうはならないんだろうな。ま、それがこのシリーズの

醍醐味でもあるからいいんですけどね(いいんかい)。

今回も読み応えたっぷりでした。面白かったー。